三木幸子さんと、三上昌子さんのコラム
『超音波検査専門の検査技師さんと連携した骨盤ケア』
皆さま、はじめまして。京都市のハシイ産婦人科クリニックで勤務している助産師の三木幸子です。クリニックで骨盤ケアを始めて、はや8年になります。
骨盤ケアを始めた当初は、妊婦さんや産後のお母さん方の、腰痛や恥骨痛などの骨盤周囲の痛みや不快症状の軽減を目指して、トコちゃんベルトの着用指導と、体操や操体法の指導をしていました。「体操だけでこんなによくなるんや~!」と感動され、私も妊婦さんと一緒に感動しながら働いていました。骨盤位(さかご)も、今ほどは多くなかったように思います。
しかし年々、運動不足で、筋力の弱い妊産婦さんが増加し、近年はさらに増加のスピードが加速していくようで、体操で体のバランスを整え、トコちゃんベルトで骨盤輪支持するだけでは、痛みや逆子が改善されないケースが増えてきたなぁと感じます。
そのような妊婦さんは決まって難産になったり、産後も自分の体がしんどいために、赤ちゃんのお世話が大変そうです。逆に、妊娠中から積極的に骨盤ケアをしていた方は、お産もスムーズで、産後も赤ちゃんの状態が良く、お乳もよく飲むし、グッスリ寝てくれるので、ゆったりと育児を楽しんでおられる方が多いと感じていました。
妊娠中からの骨盤ケアが必要不可欠と思う一方、忙しい外来業務の中で、骨盤ケアに専念できる時間的余裕が持てず、助産師・看護師を増員してもらうことも難しく、「もう少しゆったり骨盤ケアができたらなぁ…」と思う日々が続きました。そんなあるとき、(今から5年ほど前)、当院に女性の臨床検査技師が常勤採用となり、妊婦さんの経腹エコーの大半を担当してもらえることになりました。
私が骨盤ケアを指導しているスペースとエコー検査室は、つい立て1枚で仕切られた同じ部屋です。私も彼女も二人の子持ちということもあり、すぐに意気投合。骨盤ケアについても興味を持ってもらえるようになり、彼女と連携して働けるようになってからは、たくさんの“良いスパイラル”が起き始めました。
・妊婦さんや胎児の状態を、以前より把握できるようになった。
・妊娠中期からGSの形や、胎位・胎勢が良くない方、 妊娠後期になっても 骨盤位が直らない方などを、 骨盤ケア外来に紹介してもらえるようになった。
・骨盤位や回旋異常などの異常を早期発見し、適切な指導を継続できたため、 妊婦健診時の妊婦さんの満足度が上がった。
・外来の合間にできる短時間の指導だけでも、逆子であるための帝王切開や、 回旋異常を未然に防ぐことができることが増えた。
・緊急帝王切開率が下がった。
・産科医の外来業務や緊急帝王切開業務が軽減できた。
・医師も助産師も余裕を持って働くことができるようになった。
・妊婦さんから「ここでお産して良かった」との声を聞くことが増えた。
骨盤ケアに精通した臨床検査技師がいることは、私たち助産師にとっても本当に有難いことです。これからも異職種間の連携により安心安全な分娩、かつ妊婦さん、赤ちゃんにとって快適なクリニックであり続けたいと思っています。
(三木幸子)
皆さま、はじめまして。ハシイ産婦人科で勤務している臨床検査技師、三上 昌子です。
私は、生殖補助医療従事者として産婦人科の医院に5年間勤務し、第1子出産を機に退職しました。家事と育児に4年間専念した後、総合病院でパート勤務に就きましたが、「私の技術をもっと生かせる仕事はないものか?」と悩み、就職活動を開始し1年間で退職しました。
すると、運よく家からさほど遠くないハシイ産婦人科が、胎児超音波検査を主な仕事とする検査技師を募集していることを知りました。前産婦人科にて、サブスタッフとして胎児超音波検査を少し行っていたのですが、それ以外の業務を主に担当していた私が、個人の産婦人科で「胎児超音波検査を責任を持ってできるのだろうか?」との不安がよぎりました。
「果たして自分のスキルは通用するのか?」との不安を抱えたまま面接に臨むと、面接の時に説明された仕事の内容は、二度の出産経験を持つ私にはすぐに理解できるものでした。でも、同時に「個人の産婦人科でも、検査技師を常勤で雇うほどのニーズがあるのだろうか?」との疑問がわいてきました。そんなわけで、採用が決まってから働き始めるまでは、不安と期待が入り混じった日々を送りました。
勤務し始めると、私の働く超音波検査室の隣では、助産師の三木さんが働いていました。私は三木さんの仕事を見学させてもらったところ、そこには、私が妊婦健診に通っていた産院とは、全く違った世界が広がっていました。
それまでの私は、お腹の赤ちゃんが頭位になったり、逆子になったりするのは、偶然のことと思っていたのですが、三木さんの話を聞いて、そうではなかったことを知り、本当に驚きました。逆子が直らないのは、直れない理由があるんですね。
予約状況にもよりますが、三木さんの指導で骨盤ケアを受けた後の妊婦さんが、超音波検査に来られる時があります。すると、硬かったお腹がふわふわになっているのに、まずは驚きました。それから、超音波で確認すると逆子は直っていて、表情も穏やかになり、中には、赤ちゃんがニッコリ笑っているように見えることすらあります。検査技師と二度の妊婦経験を持つ私なのに、驚きの連続でした。
超音波検査で丸くないGS (胎嚢)や、膝を伸ばしていたり、反り返ったり捻じれたりしてつらそうな姿勢の胎児を確認したときは、三木さんに紹介しています。骨盤ケア後、再度、超音波で確認すると、GSが丸くなっていたり、つらそうな姿勢から、まぁるくなったり、ノビノビと動いている胎児を見るたび「よかったね~(^o^)/~」と思わず声をかけてしまいます。妊婦さんたちは、お腹の中のわが子の表情をリアルタイムで見ながら、胎児とゆったりとかかわることができ、胎児とのスキンシップも深めることができます。
検査技師は胎児超音波で、医学的検査を行うことはもちろんですが、今回お話しましたように、医師とは別の視点で胎児超音波検査を行うことが大切だと思います。そのことにより、心身ともに安定した妊娠生活と、より深い母性の育みをサポートできると思います。
より多くの妊婦さんが満足のいく妊娠生活が送れるよう、また、安全安楽なお産ができるよう、検査技師が骨盤ケアができる助産師さんと連携して、胎児超音波検査を行う施設が増えることを願っています。
(三上 昌子)