新潟県の開業助産師、東祐子先生のコラム
「“鼻づまり”が招く酸素飽和度の低下」

 
 皆さま、はじめまして。新潟県の開業助産師、東祐子と申します。
私は11年前に母子整体に出会い “姿勢を整えると不快な症状の予防や緩和ができる”と知りました。それ以来、学べば学ぶほど奥の深いこの世界にすっかりはまり込んでしまいました。今は、カイロプラクティックセミナー復習受講のため、新幹線に乗って毎月1回、東京へと足を運んでいます。
 先ほど、“姿勢を整えると不快な症状の予防や緩和ができる”と書きましたが、姿勢を一番整えやすいのは新生児期です。その新生児に関われる喜びと責任が、私の学びのモチベーション! べびぃケアとママケア教室を主催したり、新生児の沐浴訪問*をしたり、産婦人科クリニックで夜勤のアルバイトをしたりしながら、多くの母子に関わり、充実した毎日を送っています。
 (*新潟県では生まれてから1~2週間、助産師に実費で沐浴を依頼するのが、今も習慣になっています。そのため、助産師の開業率は日本一です)

 今日は、新生児に多くみられる“鼻づまり”についてお話します。
新生児は、鼻呼吸しかできないのに、鼻腔は狭いのが特徴です。そのうえ、副交感神経が優位なので、咽頭や鼻粘膜の分泌物が多く、お乳が逆流したりすると、たちまち鼻がつまってしまいます。
 実は私も先日、何の前触れもなく右の鼻の奥の閉塞感に襲われ、鼻がつまりました。姿勢が悪かったせいではと思い、手持ちの凝り緩めグッズを使用し、首と頭の間の凝りを緩めました。すると、10分もしないうちに鼻がスーっと通り、楽になりました。久しぶりの鼻づまりは、本当に苦しいものでした。新生児だってきっと苦しいはず。それも生命を脅かすほどに…ということが最近わかりました。そんな赤ちゃんの“鼻づまり”について、ぜひ一緒に考えてみましょう。

【沐浴訪問で】
 沐浴の依頼を受け、2週間ほど訪問を続けたケースです。
ツッパリと反り返りのきつい赤ちゃんでした。鼻粘膜のリンパの流れが悪化して抵抗力が落ちているのか、いつも黄緑の炎症性のかたまった鼻くそが綿棒にごっそり付着して来ました。こんな症状が出るのは風邪かも知れませんので、風邪と鑑別をする必要があります。そんなときはいつも、私はうなじを支えて、丸く抱き、指で後頸部の筋肉の凝りを緩めます。鼻づまりが消失すれば、風邪ではないことが分かりますからね。

【クリニックの夜勤で】
 分娩が進行せず仕切り直しで、朝方出生の新生児。母親は経産婦。生後2時間より、鼻閉音があったため、日勤スタッフが酸素飽和度(SPO2)をチェックし、98%で問題なし。綿棒には分泌物の付着なし。体色良好、チアノーゼなし。呼吸数正常。その後も鼻閉音は続き、母も心配していると日勤より申し送られました。
「おそらく、不正軸進入から頸部を傷めて生じた鼻づまりとだろう」と思いながら訪室しました。すると案の定、左向き癖で、左の首が凝り凝りの赤ちゃん。いつものように丸く包んで抱き、左頚部を指で温めながら、目の大きさとほっぺの形の左右差があることを母親に説明し、「胎内で首を傾げたり、ひねったりしていたのかしらね~」と話しました。
まもなく鼻閉音は消失したものの、明らかに鼻翼呼吸(+)。チアノーゼは(-)、体色良好…。しかし、この“鼻翼呼吸”は要注意。念のため、酸素飽和度をチェックするために、ナースステーションに連れていきました。 すると、93%と低値でした。モニターを着けたまま観察しているうちに、少しずつ上昇し15分後には100%をマーク!
「やっぱり首凝りによる鼻づまりかぁ~、さぁぼちぼちお母さんのところに戻そう」としたところ、90%前後までダウン! でも、多呼吸はなし、チアノーゼもなし。背中や首の凝りが緩んでも上昇せず、最高でも95%。こんな場合は心疾患かも?

 そのとき、何年か前のことを思い出していました。酸素飽和度が上がらず、2日間、酸素投与を行った新生児のことです。「突っ張り、反り返って胸郭の動きが悪いから、酸素飽和度が上がらないのでは?」と、抱き上げたものの身体は柔らかく、かすかに心雑音が聴き取れました。その後、酸素飽和度が急激に低下し、NICUに搬送。そこで、ファロー四徴症と診断されました。それ以後、酸素投与しても酸素飽和度が改善しない新生児は、心疾患を疑うようにしています。
 でも目の前の首凝りの赤ちゃんは、凝りを緩めても、酸素飽和度は上がらないし、心雑音もない。呼吸数は正常、チアノーゼもなく、体色も良好。モニターの接触不良もない…。鼻づまりだけが原因とは思えず、医師に報告して、一晩様子を見ることになりました。左側だけ鼻づまりの状態で糖水を与えると、吸啜時の酸素飽和度は81~85%まで低下し、睡眠時も91~97%のまま朝を迎えました。
 結局、酸素飽和度の低さの原因は、“鼻づまり”のようで、搬送されることもなく、徐々に酸素飽和度は改善し、鼻づまりも自然に消失しました。「訪問先で鼻をズビズビしている赤ちゃんたちも、相当苦しいのだろうなぁ~」「院内専用マイピーロ ネオがあったら、夜勤の間中、鼻づまりに振り回されることもなかっただろうに…」と思いながら、クリニックを後にしました。

【生まれてすぐからのベビーケアの充実を】
 呻りやしゃっくりよりも、鼻閉音を常に聞かされるのは、私も親御さんたちも気になり心配します。生まれてくる途中で首にダメージを受けた赤ちゃんや、目の大きさや口角にゆがみのある赤ちゃんは特に症状が強く、向き癖側の鼻がつまりやすいように感じます。スマホを手離さない妊婦さんのお腹の形の悪さや、その中に入っている胎児、生まれてすぐの新生児の姿勢の悪さに、目が点になってしまうこともしばしば…。
 「すべての出産施設で、姿勢を一番整えやすい入院中の数日間で、丁寧なケアによって、赤ちゃんの姿勢をリセットしてほしい」と願いつつ、今日も車を走らせ、ベビーケア・ママケアにと駆け回っている私です。