大分県の開業助産師 宇留嶋 美弥 先生のコラム
私の財産トコケアを、細く長く続けながらモノ作りで起業

 
【はじめまして】
皆様はじめまして。大分県宇佐市に住む宇留嶋美弥です。保健指導を中心に助産所「母の家」を運営している開業助産師であり、“hahagi”(ははぎ=母着)ブランドを立ち上げた起業助産師でもあります。

【トコちゃんとの出会い】
17年前、30歳だった私は、(旧)国立別府病院の同僚に誘われて、大分で開かれた信子先生の骨盤ケア講習会に、軽い気持ちで参加しました。講習会の終盤、それまでずっと我慢していた尿意が、さらしを巻いた途端に軽くなり、一瞬、何が起きたのかとキツネにつままれた心地に…。
産後4カ月のこのとき初めて、分娩の3要素である“産道”のうちの“骨産道”と分娩が結びついたのです。「これは学ぶべき大切なことだ!」と痛感。貴重な時間となったのでした。そこから2~3年間、隣県の福岡まで(旧)母子整体研究会やトコ・カイロプラクティック学院主催のセミナーに通い、骨盤ケアや、ベビーケアの基礎を学び、臨床でも大いに活用し、効果を目の当たりにしました。

【施術はしないと決めた日】
病院を退職し、産科クリニックにパートタイムで勤務していたころ、事務員の女性が「肩凝りがひどいんです」と私に言ってきました。その日の仕事終わりに、彼女にセミナーで習った施術をしてあげ「気持ちよかったです」と言ってもらった翌日、彼女は「痛みで首が回らなくなり病院を受診し注射をした」と。
私はあまりのショックで、その日1日仕事が手につかなかったのを覚えています。職場の知り合いだったので大事には至りませんでしたが、「もしも有料の施術で初対面のクライアントだったら…」と考えると、怖くてもう施術を続ける気持ちにはれませんでした。クライアントの体を正しく診断できないうえに、状況に合わせた施術の根拠づけができず、技術の未熟さから相手に苦痛を与えてしまい、迷惑をかけたことを猛省。
このことから、自分のクライアントへの関わり方を真剣に考え直し、出した答えが「リスクのある施術はしない」「トコケアスタイルとしては、操体法・トコちゃんベルトの着用指導、まるまる育児指導中心のケアに徹する」と決めました。当たり前のことなのですが、自分自身を見つめ直したとき、高嶺を目指しているのに、高嶺を見ることもできず、あがいている自分しか見えない状況の中、出した答えでした。
もちろん、肩回しや足首、足指回しなどの簡単な施術は、その後もしています。幸い大分県にはカリスマ助産師、芦刈美和先生という強い味方がおられますので、私が対応しきれない方は、彼女の“サロンLilas”に紹介し、連携を取りながら働いています。
というわけで、私はこの17年“浅く、細く、長く”ママ達に愛されるトコちゃんケアを続けています。浅くとも、細くとも、これまで続けているのは、トコちゃんケアが本当に必要なケアであり、多くのママ達に喜んでもらえているからです。今ではトコちゃんケアは、私の価値ある財産となっています。

【SNSで再び繋がったご縁に感謝】
少し前のこと、突然スマホに1通のメールが入りました。
誰かと思いきや、もう何年もお会いしていない信子先生ではないですか!「骨盤ケア・まるまる育児はしていなのですか?」と。憧れの先生からのメールに超ビックリ! 舞い上がりながら「いえいえ、続けています!」と即返信。数日後、またメールが。「2日後の20時までに3,000字程度のコラムを書いてもらえませんか?」という、今度はかなりの無茶ぶりな依頼! 喜んでいいのか悲しんでいいのか(^^;  断る理由もなく、いや正しくは断れるはずもなく、引き受けることにしました。全国に優秀な助産師さん達がたくさんいるにもかかわらず、なぜ私に…と、あれこれ考えた結果、きっとfacebookでいつも私が「いいね」を押すからだ!と勝手な解釈に行き着きました。

私は、信子先生のfacebookをいつも楽しみにしています。なぜなら、ケアに役立つ情報を惜しみなく載せてくれているからです。先生の投稿は読みやすく、写真もたくさん載っているので解りやすい! 時々、私も見様見真似で技を盗んでおります。
時には、先生の休日の様子やお料理上手な写真も拝見でき、先生に会えないけど会っているような気分になるのは不思議です。ブログを書き、SNSに投稿するという作業を必ずやっている信子先生の姿勢に、本当に頭が下がります。

【hahagiへの想い~起業という選択~】
私は、先生を助産師・整体師として尊敬しているだけでなく、起業家としても尊敬しています。「トコちゃんベルト」という今でこそ多くの人が知っているアイテムですが、一から作り上げ、世の中に周知されるまでの努力とご苦労は、並大抵のことではなかったと思います。

冒頭に書きました通り、私自身も3年前、2018年に“hahagi”というブランドを立ち上げ、モノづくりで起業しました。hahagiという言葉を初めて耳にする人がほとんどだと思いますので、この場をお借りしてご紹介させていただきます。
hahagiとは、「妊婦が安心して快適に出産に臨める服、産前~産後もずっと永く着られる服」です。イメージ的には“分娩衣×マタニティ服×日常着”を1着に集約した服で、妊婦にとっても、医療者にとっても機能性を重視して作った服です。どうしてこのhahagiを作ったのかと言いますと、私は分娩介助をしてきた中で、従来の分娩衣が不要な肌の露出が多いことがとても気になっていました。産婦の羞恥心や、体の冷えにつながるだけでなく、衣服が乱れるたびに整え、診察のたびに掛物を準備するといった医療者側のひと手間をなくし、効率的な分娩衣をずっと作りたいと思っていました。私のビジネスプランを聞いた人の中には、「どうせ汚れるんでしょ」「どうせ出産の短い時間しか着ないんでしょ」とおっしゃる方もいました。人それぞれ価値観は違うので、否定はしませんが、「女性が自分の命を懸けて新しい命を誕生させる尊い瞬間だからこそ、安心して、快適に産める服で産んでほしい」と私は思うのです。「服1枚ごときで何が変わるの?」と思われるかもしれませんが、hahagiを着て出産した方から、こんなメールをいただきました。「大切な家族からもらったhahagiを着て産めるなんて、家族と一緒に頑張っている気持ちになって本当に嬉しかったです」と。
出産は、妊婦の気持ちの在り方で大きく左右されることがあるのは、助産師の皆さんもご存じと思います。hahagiは、贈る人の応援の気持ちや、感謝の気持ちを“形”にして届けられる一つのツールと思っています。

【私の願い】
私の願いは、hahagiがトコちゃんベルトのように、全国の必要としてくださる方に届きますようにということです。「一緒にするな!」という声が聞こえてきそうですが(^0^)

昨年から新型コロナウイルスによって世界中が前例のない困難に直面しています。お産の現場でも、立ち合い出産や里帰り出産、産後のお見舞いに規制がかかり、妊婦が一人ぼっちの出産を余儀なくされ、妊婦だけでなく、夫や家族からも不安な声が寄せられます。私たち助産師の働き方も、少しずつ変化してきていますが、私はこれからもずっと手の温もりが伝わる距離で母子を支えていきたいと思っています。

最後にもう一つ。信子先生に「起業とは」をご教授いただきながら、ゆっくり盃でも交わしたいな、という密かな願いをいつか叶えられたらと思っています。