岐阜県の勤務助産師 田中景子さんのコラム
必死に向き合った育児が私を助産師へと導いた
【はじめに】
こぼれ球のようにコラムのお話をいただいたとき、これはチャンスだと思いました。
しかし、「助産師経験の浅い私に書けるのだろうか…」と頭の中に色々な雑念が入ってきました。
そんなとき、以前読んだホリエモンの「時間革命」という本の言葉を思い出しました。
「人生は川だ。そこにプカプカと浮かびながら流されているのが僕たち人間である。川の流れに身を任せリラックスしていると、川のどこからか「果物」がこちらに流れてくる。少しでもうまそうだと思ったら手を伸ばしてみることだ」という言葉。
いろいろと言い訳をつけて目の前のチャンスにブレーキをかけるのではなく、気になったらまずやってみようという意味です。
この言葉に背中を押され、このチャンスを掴み、私が助産師を目指し、骨盤ケアと出会い、お母さんや赤ちゃん達にとって“当たり前のケア”と感じた経験をお話しします。
【妊娠・出産・育児】
初めての妊娠は、お腹が大きくなるにつれて腰や背中が痛くなり、体全体が重だるく、育児書やネットを見ると溢れんばかりの情報。
何を参考にしていいか分からず「妊婦だから仕方ない」と諦めの境地で迎えた臨月。
お産は…、力いっぱい頑張って息んで、最後は赤ちゃんが飛び出てきました。
おしもや腰の痛み、体のぐらつきが残る中、育児は始まりました。
授乳後、布団に寝かせると10分もしないうちに赤ちゃんは泣きだし、ご飯を作るときも掃除のときも、ずっと抱っこ…。
泣いていないのは、抱っこをしているときだけでした。
子どもとの時間を楽しみたいけど、自分の体もしんどいし心にも余裕がなくて楽しむというより必死でした。
私がイメージしていた育児は、赤ちゃんは穏やかで、おっぱいを飲んだらふわっと寝てくれる。
実際の育児は「赤ちゃんは泣くのが当たり前。泣きながら育つ」というものでした。
産後10ヶ月で仕事復帰。職場の保育所に入園し、そこで私と同じように体力と魂力を消耗しながら、育児に必死になっているお母さん達がいるのに気づきました。
お母さん達の姿を眺めたり、自身を振り返ったりする中で、妊娠出産時のダメージを引きずった体では、お母さんの心も体もリラックスできず、育児も自分の時間も楽しめないと感じました。
【助産師へと導いたのは】
楽しむというより必死な子育てでしたが、子どもは私の“力の源”と実感し、「こんなに必死になったことは今までになかった」と思いました。
妊娠・出産・育児を通して自分自身や子どもと真剣に向き合い続けて4年、シングルマザーになったのは、子どもが3歳になったときでした。
母であり1人の女性である自分の生き方を見つめ直す中で「女性にとって人生の大イベントである妊娠・出産・育児を、もっと肩の力を抜いて楽しむには…? 私にできることは? それを仕事にするには? そうだ、助産師になろう!」と決断。
と同時に、看護師として10年勤務した市民病院を退職し、助産師への道を走り出していました。
必死に向き合った妊娠・出産・育児の体験は、私を助産師へと導いてくれたのです。
【骨盤ケアとの出会い】
私が「骨盤ケア」に出会ったのは、職場の先輩助産師Yさんとの出会いがキッカケです。
私が勤務しているのは岐阜県総合医療センター産科病棟で、妊娠初期から切迫流早産の診断を受け、治療や安静のために長期入院している妊婦さんが多くいます。
巡回のときに「お変わりないですか?」と声をかけると、妊婦さんからは「腰が痛い」「足の付け根が痛い」「おしっこが近くて、つらい」という訴えが聞こえてきます。
私は「つらいですよね」と、オウム返ししかできませんでした。オウム返しだったら、近所のおばちゃんでもできるのに…と、無力さを感じていました。
そんなとき、Yさんは「腰が痛むのですね。ちょっと体見せてくださいね」と、患者さんと一緒に四種混合体操とネコの操体法をし、骨盤ベルトで支えると、患者さんからは「楽になりました。歩きやすい!自分でもやってみます」と笑顔が溢れました。
この経験が骨盤ケアとの出会いでした。私は無力なのではなく、無知だったのです。
【渡部信子先生との出会い】
Yさんに勧められメンテ“力”upセミナーを受講したときに、信子先生に骨盤を見てもらいました。すると、「こりゃ~あんた、今妊娠したら骨盤位やで~!」と、言われたのです。信子先生は覚えていないと思いますが…。
私は、骨盤のゆがみで胎児の姿勢や位置が変わってくるなんて考えたこともありませんでした。助産師学生時代には、そんなこと1mmも習っていません。
【相手の体を診て感じることから】
骨盤ケアを学んでいく中で、解剖学的な知識を理解し、自分の体で試し楽になるのを実感。しかし、助産ケアの中に取り入れる難しさを感じていました。
そんなとき、先輩助産師さんから「まずは、体を診るところからはじめてみるといいよ」とアドバイスをもらいました。
それからは、妊婦さんの歩いている姿勢、座っている姿勢、寝ている姿勢、お腹の形を観察し、赤ちゃんの姿勢を丁寧に感じることから始めています。
【骨盤ケアとの出会いにより】
トコ企画のセミナーやトコカイロプラクティック学院のベーシックセミナーを受講し、自分の体を知り、ケアすることで体が楽になることを実感しました。
また、心地よく過ごしている赤ちゃんは、とても穏やかで力が抜けていること、妊娠期(妊娠前)からの体作りが、いいお産、楽しい育児につながることが分かりました。
私が助産師を目指した“大きなキッカケ”となった“必死な育児の答え”が、骨盤ケアと出会うことで分かったのです。
もしも、自分の妊娠・出産・育児のときに、先輩助産師さんや渡部信子先生、小林いづみ先生と出会っていたら、もっと肩の力を抜いて、赤ちゃんとの時間を楽しむことができたのでしょうね。
【助産師マインド】
助産師としてまだまだ未熟な私ですが、助産師としてのマインドは「全ての母親が、母親であると同時に、女性として自分が自分らしく生きていけるように、妊娠・出産・育児に寄り添い、サポートしていくこと」です。
そのためには、骨盤ケアが特別なものではなく“当たり前のもの”となるように伝えていきたい。
「それが、自分が自分らしくいられる場」と迷うことなく言えるようになりました。
【トコちゃんベルト・まるまる育児アドバイザーとして】
入院中の妊婦さんから、よく言われることがあります。「骨盤ベルトは持っていますが、どうやって使うかわかりません」「骨盤ベルトって産後から使うものですよね」と。
とても恥ずかしい話ですが、骨盤ケアを学ぶ前は、この言葉から逃げていたような気がします。
しかし、今は自信を持って骨盤ケアの必要性を伝え、骨盤ケアを通して妊婦さんのマイナートラブルが少しでも軽減し、お腹の中の赤ちゃんが過ごしやすいように、一緒にできることを考え、アドバイスすることができます。
骨盤ケアの3原則「上げる・支える・整える」は、入院中にケアできますが、これだけでは限界があります。
でも本来なら、「下げない・鍛える・ゆがめない」の新3原則によって、お母さんや赤ちゃんの体が楽になり、いいお産や、楽しい育児につながると思います。
そのためには、妊娠前?産後まで継続的に関わる「継続的な骨盤ケア」こそが
「女性の体と心を整え、ありのままの自分をよしとできること」を助けることにつながると感じています。
【最後に】
新型コロナウイルス感染拡大のため、職場の母親学級や安産教室、育児サークルなど全て中止となってしまいました。
そのため、妊婦さん達は安産のための体作りの方法や、産後の赤ちゃんとの生活イメージを持てないままお産に臨まなくてはならないのが現状です。
そんな中、私はトコ企画セミナーやトコカイロプラクティックベーシックセミナーで学んだ骨盤ケアの知識や技術を、入院している妊婦さん達にできるだけ届けようと励んでいます。
残念ながら現時点では、病院スタッフ全員で骨盤ケアができるまでには至っていません。
これからは先輩Yさんや骨盤ケアを勉強している助産師仲間と一緒に、後輩スタッフへ広めていき、より多くの妊婦さん達に骨盤ケアを知ってもらえるよう、これからも頑張ります。