関西の総合病院勤務助産師 Nさんのコラム
勉強したいと思いながら生きている自分が好き

 
【あり得ない生れ方で】
関西にある総合病院のNICUで働いている助産師Nです。
私の母は個人病院の健診で「お腹も大きく、太ってきているから運動しなさい」と医師に言われ、階段の登り降りをしていたところ妊娠32週で陣痛が起き、そのまま一直線に早産。
生まれて来た私は1,600g。「お腹の割には小さい、おかしい…」となったところで、もう一人の足が!
「双子だ!」と慌てふためく中、2,100gの第2子が生まれてきたという、今ではあり得ない生れ方で、この世に生を受けました。

【不調満載の体】
2ヶ月間入院して退院。小学校に入るまでは、貧血と成長発達を見守るため、小児科通院を続けていました。
中学3年のとき、高校受験前に咳が止まらなくなり、総合病院をいくつか受診しても治らず…、母がダメもとで小学生まで通院していた小児科に連れて行きました。
不思議なことにその小児科に入ったとたん、安心し、スーと胸が楽になり、咳も止まりました。
診察する医師が「大きくなって…」と目をウルウルさせながら、喜んでくれる姿を見て、いろんな人に支えられながら、大きくなったのだと胸が熱くなりました。
そんな経験から「人に安心感を与えられる人間になりたい」と思い、助産師を目指しました。
助産師になり、結婚し、第1子分娩後、尿もれ・腰痛に加え、前歯の上下の正中が合わなくなり、噛むのもつらく、顎が痛むようになりました。
第2子分娩後は甲状腺機能亢進となり、内科的治療では治らず、甲状腺全摘術を受けることになってしまいました。

【産婦人科外来で】
術後は産婦人科外来に配属となり、妊婦検診時に腰痛や体の不調を訴える妊婦さんが多いことに驚き、「私に何かできることはないだろうか?」と考えるようになりました。
ちょうどそんなとき、「妊産婦のための骨盤ケアセミナー」を大阪で受けたのが、骨盤ケアと渡部信子先生との出会いでした。
そのとき「もしも、私が妊娠中に骨盤ケアに出会っていたなら、顎がずれることも尿もれになることもなかったのでは?」「自分の体のためにも、仕事に生かすためにも、もっと勉強したい」との気持ちが湧き立ってくるのが分かりました。

それから、旧母子整体研究会のセミナーやトコ・カイロプラクティック学院のセミナーを次々と受講する日々が続きました。
セミナーを受けるたびに、自分の骨格の悪さを指摘され、通い続けているうちに、頑固な腰痛・肩こり・疲労が楽になっていくのがわかるようになりました。
そして「頸のケアをしていたら、甲状腺機能亢進になることもなかったのでは…?」と思うようになり、すっかりハマってしまったのです。

「私のように産後に体の不調で悩む人がいないようにしたい」と、産婦人科外来勤務の間の8年間勉強し続け、セミナーで習った診察技術や調整技術を高めたい一心で、職場でも家庭でも寸暇を惜しんで研鑽を積みました。
「胎児姿勢を手でわかるようになりたい」と、腹部エコーの前後に服を整える時や、NSTモニター着脱時に指先の感覚を鍛え、安産できるよう一人一人にふさわしい妊婦体操を考え指導していました。

【産婦人科病棟で】
その後、産婦人科病棟に異動。12年ぶりに復帰した職場は心身ともにストレスフルな日々が続きました。
そんな中でも、褥婦さん達に背中からほぐす乳房ケアや、腰痛や恥骨結合離開で苦しんでいる産後のお母さん達に骨盤ケアを実施し、セルフケアできるように指導する中で働く楽しさを見出しました。
同時に、後輩にも興味を持ってもらえるように、一緒に訪室し、ケアを見てもらったりしながら、共に活動してくれる人を探していた矢先、NICUへ中間管理職として異動となってしまいました。

【NICUで】
これまで続けていたケアができなくなった一方、NICUにはまた新たなケアの対象とスタッフが待っていました。
NICUには看護スタッフは50名あまり、そのうち助産師は20名近く。もちろん入院児数も多く大所帯です。
現在、NICUでは胎児姿勢を取れるようにポジショニングをして、小さな赤ちゃん達が安楽に過ごせるようにケアに励んでいます。
体重が増加し、経口哺乳ができるようになれば退院になるのですが、その2点さえクリアすれば、私たち看護スタッフは役割を全うしたとは言えません。
NICUでは日々小さな赤ちゃん達は成長発育しますが、同時に、発達し続けなければいけないのです。
発達支援の必要性は感じてはいても、この分野に関しては学生時代に学んでいないせいもあり、とても苦手に感じているスタッフが多いのが現実です。
反り返る子、姿勢や動きに左右差のある子も多く、外科的手術が必要な疾患を持つ子や、気管軟化症などの内臓疾患を持つ子など、6ヶ月〜1年という長期入院の子も多くいます。

特に、循環器疾患を持つ子は、泣くと全身状態が急速に悪化するため、泣かせないケアが重要です。そこで、“まるまるねんね技”の出番です!
反り返る赤ちゃんが持つコリを探し、手当てをし、姿勢を丸く整えるなど、習った技をフル活用ししながら寝かせます。
こんな“得意技”を駆使し、上手くいくとスタッフからも医師からも一目を置いてもらえ、私の心も癒されるのです。

昔から「寝る子は育つ」と言われるように、様々な疾患を持つ子達もよく寝てよく飲む子は、よく遊びよく笑います。
身体面でのハンディを抱えながらも、したたかに発達している姿を目の当たりにするときが、NICUでもっとも働き甲斐を感じるひと時です。

【母乳育児・口腔機能発達支援】
1,000g未満で生まれた超低出生体重児には、母乳を与えることが特に大切なのですが、とても難しいのが現実です。
「赤ちゃんがNICUに搬送になったから」との理由で、産褥2日で退院になるお母さんもあり、歩くことすらおぼつかないまま面会に来られます。
もちろん、搾乳指導も母乳分泌を促す指導も、全く受けることなく…・。
NICUの医師からは「母乳を届けて欲しい、お子さんのために頑張ってください」と言われ、それがプレッシャーとなり、ストレスをため込み、さらに追い詰められていく人も多いのです。

そのうえ、このコロナ禍です。感染防止対策の一環として、病院全体としては基本的に面会禁止となりました。
NICUだけは特別に許可されているものの、コロナ禍以前は両親ともに22時までは何時間いても構わなかったのに、大幅に制限されました。
お父さんは初回面会の時に10分のみ。あとは、手術の説明(インフォームドコンセント)の時のみ。これ以外は入院期間が数ヶ月になっても、面会できません。

お母さんは1日1時間まで。指導の時間は大幅に短縮されてしまいました。
こんな短時間で、子どもへの愛着形成と育児技術を、お母さんが身に着けられるように指導する…、そんなことができると思いますか?
そもそも、早産になったお母さん達は体が冷たく、硬く、搾乳時に上手く手を使えない人が多く、セルフケア法を身に着けることすら困難です。
そんな厳しい条件の中でも、1人1人の体を診ながら、その人ができるセルフケア法を指導しています。しないわけにはいかないからです。

母乳育児が上手くいくには、赤ちゃんの“飲み方と飲む力”も大切です。
口腔機能発達の研修に6人で受講し、その後、スタッフ全員に伝達講習をし、口腔マッサージなどを看護計画にあげて、皆で実施しています。
お口のケアをすることで母乳が飲めるようになり、直接母乳が続くようになります。それにより口腔機能の発達が促され、健康な体の土台となっていきます。

【家庭でも】
息子2人は学生と高校生になり、高校野球をしている息子の朝練のために5時起きが続いています。
夫は洗濯だけはしますが、その他の家事は基本的にはしません。
でも、休日に試合があるときは観戦に行くくらいなので、育児に手はかからなくなりました。

野球をしている息子が疲れたり、背中や肩が張ったりするときなどはケアを要求し、野球メイトが腰痛などで不調があれば、「何とかしてあげて」と言いに来ます。
どうやら私のケア技術は野球部員の身体ケアにも役立っているようです。それが野球技術や対戦成績の向上、学力向上につながれば、親としては何よりです。

【これからも】
成長発達が気がかりな子がいても、小児科医から「小児科でフォローアップ健診に行くので大丈夫」と言われると、「まだまだは私達看護スタッフの発達援助力は期待されていないのか…、まだまだ勉強しないといけない」と、スタッフとともに落胆することもしばしばです。

その助産師・看護師達をセミナーに誘って、NICUの子ども達の成長発達を促すケアができるよう勉強し、皆が力を発揮できるようにしていきたい。
理論を身に着けるだけでなく、目も手も口も全て使って、スタッフ全員で納得できる働き方ができるようにしたい…。
そう思いながら生きている自分が好きです。

総合病院で働くことはしんどいこともありますが、学べることは多く、どんな部署で働いていても楽しいです。
さらに、骨盤ケア・“まるまる育児”の技術を身に着けると、自分の体も楽になり、仕事も人生もさらに楽しめます。
貴女もそんな人生を歩んでみたいと思いませんか?