滋賀県の開業助産師 中村 明実 先生のコラム
保健師時代の課題に戻って、助産院開業
【はじめに】
皆さんこんにちは。滋賀県守山市で昨年5月に「助産院そらいろ」を開業しました中村明実です。
分娩の取り扱いはなく、トコちゃんベルト教室、赤ちゃんの育児教室、母乳育児相談室の3本柱で活動しています。
【新人保健師の決意】
愛知県内の看護学校を卒業後、そのまま保健科へ進学。保健科卒業後は名古屋市内の企業に保健師として就職しました。
会社側にとって初めての採用であり、保健師は私一人。最初は教えてくれる先輩がいないので困りましたが、とりあえず自分にできそうな指導業務から始めることにしました。
「高脂血症のための栄養教室」「糖尿病予備軍のランチ会」など、先輩がいないのをいいことに…(*^^*) 思いついたことを即実行。それが上手く行くと嬉しくなってまた次のことに挑戦、1年経つ頃には保健師の仕事にやりがいを感じるようになりました。
そんな中、従業員の1人が心筋梗塞で亡くなったという知らせが入ってきました。
聞き覚えのある名前だったので「もしかして…?」と調べてみると、やはり健康相談や栄養指導で、何度かお会いしたことのある方でした。「自分の行っている指導は自己満足で終わっているかもしれない」と、初めて不安に思った瞬間でした。
問題があっても特に困っていない人が、自ら行動を変えたくなるようにするにはどうしたらいいか。ただ健康の知識を与えたり病気の怖さを話したりするだけでは変わらない。私自身がもっと人の痛みを理解する心を持つこと、生きた知識や経験を積むことが必要だと思うようになりました。
「よし! 1からやり直そう!」。そう決意し入社から2年で退職。翌月には日赤病院へ就職しました。
【内科病棟勤務】
「体のこと、疾患のこと、とにかく勉強するしかない!」そんな思いでしたので、基本を学ぶ目的で内科病棟を希望しました。
消化器病棟でしたので、入退院を繰り返しながら終末期を迎える患者さんも多かったです。「また来たよ~!」「おかえりなさい」というやりとりがあって距離が近くなる感覚ですが、前回よりも明らかに悪くなっている姿を見ると、やはり動揺し、心に重くのしかかるものがあります。
随分悩むこともありましたが、看護の本質にかかわる大事なことを教わった気がします。病棟に勤務して4年が経った頃、学生時代の友人から連絡があり久々に会うことになりました。助産師をしている友人の話はとても新鮮でおもしろく、刺激を受けました。
【命が尽きる瞬間から命が誕生する瞬間へ】
友人との再会をきっかけに助産師になりたいと思うようになり、半年後には助産師学校を受験しました。
合格通知をいただけたので、4年半ほど勤めた日赤病院を辞め、愛知県内の助産師学校へ…。「こんな世界があったんだ~!」。初めて知ることが楽しくて、久々の学生生活が嬉しくてたまらない!卒業後は愛知県内の総合病院産科病棟に就職し、よい先輩方に恵まれた中で分娩介助の経験を積み、命が誕生する瞬間の素晴らしさに感動しながら4年間勤めました。
【トコちゃんベルトとの出会い】
総合病院退職後、滋賀県へ引っ越しすることになり、息子が3歳になった頃から10年間、産科クリニックでパート勤務をしました。
以前から開業には興味があり、「そろそろ開業したいな~」と思ったのですが、開業しても自分にやれることが何もないことに気が付きました。10年間、一体何をしていたのか!? とりあえず、人気のトコちゃんベルトから始めよう…。それがトコちゃんベルト、そして渡部信子先生との出会いでした。
出会った瞬間「こんな世界があったんだ~!」という、あの懐かしい感覚に包まれたのです。セミナー受講後はいつも、パズルの最後のピースがはまったような満足感とスッキリ感があります。
また、その先のことがもっと知りたくなり、つながっていくのがとても楽しく、「これだ!」と思いました。指導を受ける人がこういう感覚を得られることが大事なんだと。これこそ指導者に求められる指導力だと思いました。
【赤ちゃんの発達への興味】
竹内華子先生の「赤ちゃん発達応援セミナー」を受講したときに、「赤ちゃんって、なんて面白いんだろう!」と思いました。
そして、自分の育児を振り返るきっかけにもなりました。息子は小学校の遠足で最後まで歩けないほど、体力がなく姿勢も悪い。「なぜだろう?」と不思議に思っていたのですが、息子が生まれたときからのアルバムを全て見直し、セミナーの内容と照らし合わせてみたところ納得しました。
「そうか! こんなに小さな、まだ歩いてもない時期の発達こそ大事だったんだ!」もし知っていたら…、という後悔と、たくさんのお母さん達に伝えなければという思いが湧いてきました。
その後、京都トコ会館に何度か通い、渡部先生が指導されている様子を見させていただく中で、「赤ちゃんのための育児教室をする」という具体的な目標が見えてきました。
【開業―最初の課題に戻る】
昨年5月に開業し、半年後くらいからやっと育児教室にもお客さんが来てくださるようになりました。
赤ちゃんの育児に困っているお母さん、赤ちゃんの発達に興味のある意識の高いお母さん達です。問題は、私がかつてそうであったように、全く育児に困っていなくて知りたいと思うきっかけのないお母さん達。このお母さん達にどうやって伝えていくのかが、今後の課題だと感じています。
妊娠期こそがお伝えするチャンスだと思いますので、妊婦さん向けの教室を工夫してみようと計画中です。「保健師時代にやり残した最初の課題を、今また取り組んでいるんだな~」と思うと不思議!育児教室は個別で行っています。
最初の頃はあれもこれも教えたくて講義のようになっていましたが、最近はお母さんのやり方を聞いた上で、アレンジするという方法にしています。今のやり方を大きく変え過ぎないことで継続に、そしてうまくできていることは、ちゃんと認めることで、自信につながるようにするためです。
「本当に赤ちゃんのための教室になっているのかな?」「自己満足で終わっていないかな?」ということを常に意識して、試行錯誤しながら良い教室を創っていきたいです。
【最後に】
私は、トコ企画や京都トコ会館でのセミナー、トコ助産院のランチ会などで、大事な友達を見つけることができました。
いつも面白そうな勉強会があれば誘ってくれて、相談にものってくれます。彼女達は助産業務に関係あるなしにかかわらず、いろいろなことに興味を持っているので、楽しくてとても魅力的。
人とつながることが嬉しいと感じるようになったのは、彼女達のおかげです。勉強だけでなく出会いの場を作ってくださり、ありがとうございました。これからもどんどん参加していきたいと思います。