東京都多摩地区の勤務助産師Nさんのコラム
様々な分娩の場を経て、麻酔分娩のクリニックで骨盤ケア
【様々な「安楽なお産」の取り組み】
助産師となり数十年たちますが、何年たっても次々に課題が湧き上がってきます。
「お産と言えば痛いもの」とのイメージを払拭し、「どう過ごしたら陣痛を乗り切れるか」、「何とか安楽な出産はできないものか?」と、数十年間、いや、それ以上の長きにわたって、様々な取り組みが繰り出されてきました。
私が助産師で働きだした頃は、三森式ラマーズ法が全盛期。勤務した病院では35週を過ぎた妊婦を対象に「安産教室」を毎週開き、呼吸法・補助動作の指導をしていました。
出席率は高く、出産まで毎回申し込んでくる妊婦すらあり、入院して来ると妊娠中に学んだ呼吸法の実践です。
陣痛室では「ヒッヒッヒ、フ―――」と呼吸に合わせ、産婦はお腹をさすり、家族や私達は背中をさする。陣痛室はあちこちから「ヒッヒッヒ、フ―――」と、こだましていました。
夫も事前に「安産教室」を受講すれば出産の立ち会いが可能となり、いざ出産では夫婦で励まし合い、介助者の「吸って~吐いて、吸って~吐いて、大きく吸って、はい! いきむ!」の声に合わせて、新しい家族を迎える場面が増えていきました。
分娩に携わるみんなが心を一つにして成し遂げる、一体感のある出産でした。
たまに飛び込みの出産があると、「痛い! 痛い! もうやだー! もうだめ、お腹切って~早く終わらせてぇ~~~」と、のたうち回る産婦をスタッフ総出で押さえ込みながら呼吸を指導しても聞く耳を持たず…。
出産が終わると静かに赤ちゃんを抱く母親と、生気を奪われ疲れ切ったスタッフ。妊娠中から分娩をイメージして心構えを準備しておくことは大切と実感ました。
その後、自らが「ソフロロジー呼吸法で頑張りたい」と、自宅でCDを繰り返し聞き、イメージトレーニングをしている妊婦が現れました。
新しいことはすぐ取り入れる方針の師長の下、早速スタッフはソフロロジーの研修を受け、私を含め全員、伝達学習で産婦の希望に添えるよう準備をしました。
実際はこの方にしか出会いませんでしたが、「出産は母と子の共同作業」と、陣痛室で繰り返しCDを聴きながら、穏やかに過ごされていたと記憶しています。
最近ではヒプノバースの講習を受け出産準備をしているご夫婦に出会いました。タイムリーなことにヒプノセラピーの講習を1回受けた後で、「催眠療法を分娩に取り入れるとは? 私には理解できん!」と学んだところでした (;^_^A
また勉強せねばと構えましたが、レポート用紙3枚にもしたためた“お産の希望”を見て、びっくりしたと同時に、「これを実現すればよいのね」と、安堵。
レポートには「痛みを連想する言葉は言わないでください。陣痛が来たではなく波が来た、破水ではなく解放、カンガルーケアをしたい・・・」などなど。生まれてカンガルーケアの最中に、傍らにいたご主人が服を脱ぎだし、上半身裸でママと赤ちゃんを抱擁した場面は衝撃でした。
【無痛 (硬膜外麻酔)と和痛(鎮痛剤筋肉注射) 】
さらに最近では、「痛みを感じないお産をしたい」と希望する妊婦が増えてきました。そんな今、私は麻酔分娩を売りにしているクリニックで勤務しています。当然、ほとんどの妊婦が麻酔分娩を希望して来院しています。
当院での麻酔分娩の方法は、「無痛」と称している“硬膜外麻酔”と、「和痛」と称している“鎮痛剤筋肉注射”の2通りあります。
新卒当初から呼吸法や補助動作を妊産婦に指導し、産婦とともに陣痛を乗り越えてきた私には、新しいクリニックでの麻酔分娩は受け入れがたいものがありました。「一緒に陣痛を乗り切りましょう」なんて精神論は、遠い昔のお伽話となってしまったかのようです。
クリニックの方針は「産婦の希望ファースト」です。「痛くなりそうだから薬を入れてください」と言われたら麻酔薬を入れるしかありません。
せっかく乗ってきそうな子宮収縮にストップをかけ、第Ⅰ期は遷延…。結果、分娩停止で帝王切開になることもあります。
全開してからも「痛いの来そう~~、薬はまだ使えませんかぁ」と言われたら、仕方ありません、定時に麻酔を入れていきます。
院内の規定では無痛分娩の場合、「第Ⅱ期は3時間まで待ってよし」とあります。「第Ⅱ期が停滞して帝王切開」は多くありませんが、3時間待って、結果鉗子&吸引分娩に。第Ⅱ期の最長時間は麻酔を使い続け、全開してから16時間で吸引分娩…!?ということもありました。
出血は確実に多くなります。その分、出血多量による母体搬送は増え、私達の仕事は増え、お産に立ち会った喜びも笑顔も減るばかり。クリニックで働き始めて1年は、「麻酔分娩なんて嫌だぁ」とのモヤモヤを抱えていました。
ところがその反面、麻酔を使うことによって、リラックスして、スルッとお産が進むことも。「この違いは何だろう?」と考えるようになったある時、計画出産の経産婦を受け持つことになり、お腹を見ると・・・激しく斜めってる!
無痛希望だったので、心の中で「これぇ・・・、進むのかぁ」とつぶやきながら、胎軸を整え陣痛促進を始め、希望通りに麻酔を使っていくと、意外や意外4時間足らずで分娩に至りました。
「胎軸が整っていればそれなりに進むのかも?」と、それ以来、麻酔を使う前には念入りに胎軸をチェックし、トコ企画やトコ・カイロプラクティック学院で学んだ知識と手技を総動員し、胎軸を整えるようにしました。
胎軸が整うと傍で見ているご主人は、産婦さんに「お腹が小さくまとまったよ」と、驚きながらも嬉しそうに言われます。
そうして嫌々ながらも数年働いているうちに、麻酔を使っても停滞しなくなった手ごたえを感じるようになり、「麻酔分娩なんて嫌だぁ」とのモヤモヤも薄れてきました。私のささやかな達成感です。
【産後の引き締め】
次の課題は産後の引き締めです。
妊娠中に体は緩みに緩む、それなのに分娩後2時間後には、弛緩しきった体で歩く!?臨床を離れている間に時代は変わっていました。いつの頃からか分娩後2時間で、歩いて帰室することが定着していたのです。
ある日、生まれたての子ヤギがヨタヨタと立ち上がったような褥婦さんが、悲鳴をあげるように叫びました。
「妊娠中、なんの断りもなく緩むホルモンが出て、産後には締めるホルモンは一滴も出ないなんて!!」「うまいな~(@o@)」と、感心している場合ではありません。
妊娠中はリラキシンが分泌され緩んでいき、分娩中は児が通るので骨盤が開いていきます。産後は鍛えていかないと締まりません。産後に気が付いても、頭は回らない。体は動かない。
やはり妊娠中から、そんな産後が来ることを理解し、どう対処していくべきかを、私達助産師も深く学び、妊婦に伝えていくことが必要。
『心と体がラクになる産後の骨盤ケア』は必読。最近、覚えたての「骨盤を締める!」を展開中です。
【おわりに】
様々なお産の取り組みはありますが、最も大事なことは「妊婦自身が意識的に出産に臨むこと」と、私達介助者がそれを援助することだと思います。
トコ・カイロプラクティック学院では、ベーシック・カイロプラクティックと系統立てて学びを深めていけ、トコ企画の各種セミナーでは、学びを広げる機会が盛りだくさんです。
そこから学んだ、開いた仙腸関節、飛び出した股関節を少しでも修復して、「楽に歩いて、楽しく育児を始める」を、若いお母さん達にしっかりと伝え、私自身の知識と経験を積み上げていきたいです。