病院の外来勤務助産師 Mさんのコラム
郷里へUターン、初めての外来勤務で実践していること

 
【はじめに】
こんにちは、人口5万人の海沿いの町に住む助産師Mです。
3年前に近畿から郷里に家族と共に35年ぶりにUターンし、その後、地元の総合病院にパートとして就職。1年間の病棟勤務の後、産婦人科外来に移り2年になります。

近畿でのセミナーでは、いつも信子先生から「田舎にいくほど人は歩かなくなる」と聞いていました。
私が子どもの頃の実家には車はなく、ほとんどの人々の移動手段はバスか徒歩しかありませんでした。なので、「私の郷里はそこまではないわー」と思っていたのですが、35年の歳月が過ぎた郷里の様子は、信子先生が言われた通りの田舎町に変わっていました。

それを教えてくれたのは夫。ウォーキングが好きな夫は、引っ越した当初からせっせと市内を歩いていたのですが、しばらくすると、「道路も歩道も立派やけど、人が歩いてない!」と。
エッ? と思って気をつけて見ると…、35年前は人で賑わっていた駅前の商店街は閑散とし、地価の安い海沿いの遠隔地に大型店舗が立ち並び、車は通るけど人影のない町に変わっていることに、ようやく気付きました。

【病棟から初めての外来勤務へ】
近畿では病棟勤務ばかりだった私にとっては、外来勤務は何もかもが新鮮でした。院内に産婦人科医は3人(65歳医師1人、40代医師2人)。まず産婦さんを多く診ている年配の医師に付いて、産科の仕事から覚え始めました。

そこで最初に驚いたのは、腹直筋離開の妊産婦さんがほとんどという現実! 腹筋を使ってちょっと頭を持ち上げただけで、地殻変動が起きて地面が隆起してきたようなお腹(@@)
前回の妊娠の腹直筋離開をそのままにして妊娠したのか、小さく細かい糸ミミズのようなしわが臍周囲にあり、その辺りの腹壁だけが妙に沈下している経産婦さん。

1人産むごとに離開はひどくなり、4~5人出産する人もさして珍しくないこの地域ですから、「さぞかし医師も助産師も困っていることだろう」と思ったのに…、腹直筋離開よりさらに驚いたのは、この現実を誰も問題視していないこと!

・左右にびよーんと引き延ばされたような子宮の形も
・前方に突出したお腹で、辛そうに歩く妊婦さんの姿も
・妊娠後期に入っても、コロコロと胎位が変わる赤ちゃんも
・分娩時に息んでも天井方向に力が働いて、娩出に時間がかかるお産も…

「それがそんなに問題?」と、いぶかしげに言う助産師! 症例数が多いと疑問にすら感じない? 日常の風景になってしまっている?!今までセミナーで学んできた「車社会の中で動かなくなった人間はこうなる!」ということが、まさに目の前で起こっている現実に愕然としたのでした。

そこで、年配医師に「腰痛を訴える妊婦さんに骨盤ケアを勧めたいんです」と伝えたのですが、返ってきたのは否定的な返事で、気持ちがかなりへこみました。
でも…、
・辛そうな表情や姿勢で来院する妊婦さん
・「産んだのに腰痛が良くならない」と言う産婦さん
・回旋異常で分娩停止から帝王切開になった妊婦さん

など、いろんな方々を目の当たりにするにつけ、忙しい外来で自分にできることをやろうと思うようになり、隙間時間をみつけては話しかけるようにしました。

【腹囲・子宮底を測って気付いたこと】
今は腹囲・子宮底を計測する病院も減ってきているようですが、私の病院では腹囲・子宮底を計測して腹部エコーをします。私にとっては妊婦さんに触ることができる貴重な場面ですから、レオポルド胎児触診法をする時間はないけど、お腹の形をみたり、体調を聞いたりしていました。

そんなある日、他県でシロッカー頸管縫縮術を受けた里帰り妊婦、Kさんが来院しました。
Kさんの腹囲を測ろうと手を背中に回したのですが…、背中がベッドに張り付いたようになって手が入らない! Kさんも必死に腰を反らすのですが、メジャーが入る隙間すらない! 仕方なくお尻を上げようとするのですが、お尻もなかなか上がらない。「もしかして…、これが腰椎後彎の妊婦さん?」と思った初めての経験でした。

それからは
・腹囲を測る際に、どれだけベッドと背中の間に空間ができるか?
・空間が狭い人は、その後の胎児エコーで、胎児の様子がどうなっているか?
これらを気をつけて診るようにしました。

そうしているうち、腹囲を測る際に自主的にサッと腰を上げてくれる妊婦さんは、「もしかして、腰に手が入らないから、無意識に腰を上げるようになったのではないか?」と思うようになりました。

【胎児エコーを通して実践していること】
「この週数で第2分類(顔が前向き)?」と思うことが結構あり、以前、上野順子先生が「臨月間近に、エコーで顔写真を撮って喜んでいるようでは、生まれません!」と言われていたことが、甦ってきます。

・「赤ちゃんみたいに四つ這いになって、ハイハイしてみませんか?」
・「床拭きもいいですよ。赤ちゃんは生まれやすくなりますよ」
・「手首も柔らかくなるし、肩甲骨も動かすから産後の母乳の出も良くなりますよ」
・「部屋もスッキリするし、いいこと一杯です」

などなど、妊婦さんに話していると、年配医師が「??」という表情で、「そんなに頑張らなくていいです、僕が何とかしますから」と(@@)

そんなふうに妊婦さんに話しておられたのですが、そのうち「いやー、昔は皆さん床拭きしていたのに、今はお掃除ロボットですからね~」との笑いが見られるように(^0^)
そして、「ああいう動きがお産にはいいんでしょうね」と、賛同するような言葉が徐々に聞けるようになりました。指導した妊婦さんの胎児が第1分類(顔が後ろ向き)に変わっていくことに、効果を感じてもらえたのかもしれません。

医師に「お腹の赤ちゃんがうつ伏せでも大丈夫なんですか?」と不安を口にする妊婦さんに、「お産にはこの方がいいんですよ。顔写真はとれないけど」と答える言葉に「やったー!」と心の中で叫んでいる私です。
「床拭き四つ這い、窓拭きスクワット」は、車社会のこの地域ではいろいろな意味での安産への必須動作だと思います。

この病院では初産婦さんは全例骨盤のレントゲン写真を撮っています。まだデータ化していませんが、横径より縦径が長い妊婦さんが多いのは明らかです。40代中堅医師2人は研究・勉強熱心な医師です。診察の隙間時間に、次のように小出しにしながら声かけをするようにしています。

・西条柿型(縦長)の骨盤入口部が多いと思うんですが、そういうのは問題にならないんですか?
・頸管裂傷が3時方向に多いのは車社会と関係あるんでしょうか?
・過去のレントゲン写真から計測値を出してデータ化できますよね。

3つめの声かけをした時は「それ、いいかも!」と言われました。周産期の現場で問題になっていることに、医師も興味をもってもらえるよう、少しずつジワ~ッと話ができたらと思います。

【おわりに】
外来では1人1人の妊産婦さんと接する時間はわずかですが、妊婦さんとは15回前後会える機会があり、妊娠中~産後の変化を目の当たりにすることができます。こんなに長期間にわたって、何回も会える場所は他にあるでしょうか?

単なる診療介助ではなく、気持ちに寄り添い、自分が学んだ情報を提供することができるのが外来だと位置づけて、日々奮闘しながら楽しく働いています。
生まれた時から車社会で過ごす妊婦さんが、少しでも良い状態でお産に臨めるよう、少しでも言葉を重ねて、分娩・出産・育児へと送り出していきたく、これからも頑張ります!