鳥取県の勤務助産師 市野優枝さんのコラム
助学時代に学んだ乳幼児の発達と、それに繋がる“まるまる育児”
【はじめに】
鳥取県のみやもと産婦人科医院に勤務しています、助産師の市野優枝と申します。
近畿で生まれ育ち、看護学校卒業後、当時の京都大学医療技術短期大学専攻科で助産学を学びました。
乳幼児の発達に興味があった私は、実習先で小児科医の家森百合子先生が「発達グレーゾーンの乳児は関わり方次第で限りなく正常に近くなる」と話されたことが、強く印象に残っています。
反り返らないように、左右差なく体が使えるように育てることが大切であり、そのための体操なども学びました。
【鳥取へ移り、妊娠・出産】
助産師として大学病院で4年勤務した後、婚約者が鳥取県内で就職することになり、結婚と同時に全く知り合いのいない地での生活がスタートしました。
平成8年に長女を出産。安産と言えるかどうかは分かりませんが、3,136g、軟産道裂傷なしのきれいなお産でした。その当時、私も周囲の人達も骨盤ケアを知らず、産後はウエストニッパーで腹部を締めていました。そのためか産後は体型が戻らず。次女を妊娠中は尿漏れと恥骨部痛に悩まされました。
生まれた娘は、2人とも股関節の硬さを指摘され、整形外科に約2ヶ月間、経過観察通院しましたが、抱き方に注意し股関節を開くような体操をすることで改善しました。今思えば、胎内で体育座りの姿勢でいたのかもしれません。
眠りが浅く、ベッドに寝かせると30分もしないうちに泣く子達で、試行錯誤しながら横向きで手をくるんで寝かせる方法で乗り切りました。当時“おひなまき”を知っていれば、あんなに大変な思いをしなくてすんだのに…、と悔やまれます。
育児中は、助産学生時代の学びを思い出しながら、向き癖がつかないように寝かせ、手足を体の中心で合わせて遊べるように、赤ちゃん体操をして育てました。その成果でしょうか? 2人とも手先が器用で、2歳2ヶ月頃には、鋏も箸も使いこなしていました。
【新生児訪問の仕事を14年】
長女が2歳になった頃から、一時保育に子どもを預け、鳥取市の新生児訪問の仕事を始め、次女の出産で休職を挟みながら、この仕事を14年間続けました。
通常は生後1ヶ月前後に訪問するのですが、里帰り期間の長い方は3~4ヶ月を過ぎて訪問することもありました。そうなると、ひどい向き癖がついている児や、手を使って遊べない児もいました。
頭の形が悪く向き癖が強いことを、「気になっていたけれど、どうして良いか分からなかった」と言われるお母さんが多くいました。私は自分の経験から、寝かせ方を変えることで向き癖がつきにくくなることや、体が丸くなれるように体操をした方が良いことを、お母さん達に伝えていました。
そんな経験から、産院で体をゆがませない寝かせ方を教えるべきだとの想いが、年々膨らんでいきました。訪問時、お母さんに抱っこされているにもかかわらず、赤ちゃんは反り返って泣き続けていて、「何をしても泣き止まないんです」と嘆くお母さんに出会うことも。。。
そのたびに、私が丸く抱っこすると泣き止んだり、バスタオルで丸くくるむようにすると、赤ちゃんがスーッと落ち着くのを見て、「それだけで楽になるんだ~」と驚かれるお母さん達がほとんどでした。
【医院勤務、骨盤ケアとの出会い】
次女が幼稚園入園のタイミングで、今勤務している医院にアルバイトとして、外来業務のお手伝いをすることになりました。母子整体セミナーを受講したスタッフが数名いて、腰痛のある方にトコちゃんベルトを指導していました。それを見て、こんなケアがあることを初めて知りました。
長く保健指導を中心に仕事をしており、臨床の現場からは20年離れていたのですが、機会を頂き5年程前から常勤助産師として勤務しています。
20年ぶりにお産の現場に戻って感じたことは、微弱陣痛・回旋異常・弛緩性出血の多さ!医院(診療所)であるにもかかわらず、何でこんなに緊急帝王切開が多いのか?!
臨床経験が少ないうえに、長年お産の現場から離れていたこともあり、「今のままでは仕事を続けていく自信がない」と打ちひしがれていたそんなとき、トコ企画のセミナーを知りました。
メンテ“力”upセミナー・骨盤ケアアドバンスセミナー・安産誘導セミナーを受講。骨盤を整えることの重要性を痛感しました。
【骨盤ケア教室】
それまでは、症状のある妊婦に個別で骨盤ケア指導をしていたのですが、「それではいけない。症状のない妊婦も安産のためには、骨盤ケアが必要」との想いで、骨盤ケア教室を1年ほど前から始めました。
子宮の形がいびつで硬い妊婦、胎児が横位になっているなどの、気になる妊婦には、骨盤ケア教室にお誘いしています。
ですが、鳥取は勤労妊婦が多く、「予定が合わない」と断られることも度々あります。参加人数は2~7人と定員10人に満たず、どうすれば、参加率を上げることができるのか…?模索中です。
教室に参加した方の、フォローも不十分で、トコちゃんベルトも着けず、セルフケアもせず、切迫で入院になった妊婦がいた時は落ち込みました。
反対に、ひどい脊柱側湾症で、側彎の進行を止めるための手術を受けたことのある初妊初産の方が、骨盤ケアに励み、分娩所要時間4時間で安産できたときは嬉しかったです。
【丸寝・丸抱き指導】
新生児訪問の時に抱いていた、「産院で向き癖がつかない寝かせ方を指導すべき」との想いは、そこまでの必要性を感じていないスタッフを説得するところから始まりました。
勉強会を開くなどの準備期間、数ヶ月を経た後、母子同室時に指導することになり、3ヶ月前から、丸く抱き丸く寝かせる指導がスタートしました。
始めに教えてあげれば、それが当たり前になり、向き癖がついて体が上手く使えない児が減ると思います。“おひなまき”は全例にはできていないのですが、出生直後からひどく体がゆがんでいる児に“おひなまき”を指導し、1ヶ月間続けることにより改善したこともありました。
【おわりに】
骨盤ケアも“まるまる育児”も知らないまま出産・子育てをした私ですが、助産学生時代の学びのおかげで、2人の娘は丈夫に器用に育ちました。
それらのケア法を広めようと思っても、組織にいるといろんな考えの方がおられ、私一人の意見は通りにくいと感じています。全体を変えることは難しくても、できることから少しずつやっているのですが、骨盤ケアに興味がある人達も、地方だとセミナーに行くにもハードルが高く、なかなか行けないのが現実です。
多くの医療・保育関係者に「私も骨盤ケアの勉強をしたい」と思ってもらえるように、私自身の知識と技術を磨き、実績を積んでいきたいと思います。
そして、骨盤ケアと“まるまる育児”を広め、つらい体の児を減らしていくことを、私の人生の目標の一つとして、歩んでいきたいと思っています。