県立病院非常勤勤務助産師 Aさんのコラム
常勤産婦人科医師不在病院で、助産師主導の仕事ができる幸せ
はじめまして、神奈川県の片田舎にある県立病院で、産科と地域包括ケアの混合病棟で働いている非常勤助産師Aと申します。
このあたりは、1人1台車を持っているような地域であるため、歩けば5~6分の距離も歩かず、体力・筋力のない妊婦さんがほとんどです。
かく言う私も同様でした。今年は私が助産師になり20年、骨盤ケアに出会い13年。息子3人の子育てで、休んでいた期間もありましたが、助産師人生の半分以上の年月の間、骨盤ケアを続けていられることを嬉しく感じています。
【トコちゃんベルトとの出会い】
私とトコちゃんベルトの出会いは、第1子妊娠中のこと。20週でナプキンいっぱいの出血があり、切迫早産の診断を受けそのまま自宅安静。入院はしなかったものの、お腹の張りと出血を繰り返していました。「張り止め薬の内服と安静しか、自分にはできることがないのか…」と、悶々とした日々を送っていました。
そんな中、ふと、学会でもらったトコちゃんベルトの広告を思い出しました。広告を見直してみると、自分の体の不調と症状が見事に合致。さっそく、取り扱っている助産院を訪ね、購入しました。使ってみると、「今までの体の重さは何だったのか?」というくらい軽くなり、出血も徐々に落ち着き、無事、助産院で正期自然分娩することができました。
しかし、当時、1ユーザーで知識不足の私は、分娩翌日のシャワーの時に、不用意に勢いよくベルトをはずしてしまったのです。その途端、膣の奥から何かが「ズドン」と落ちてくる感じがしました。股の間に落ちないように、思わず太ももをクロスさせてしまうほどでした。「子宮が下垂したんだ!」と思い、慌てて浴室から自室に帰り、骨盤高位にしながらベルトを着けました。
その後は、知識不足ながらも「気合い?(腹力?)」を入れてベルトの取り外しを行い、それ以降、子宮の下垂感はありませんでした。「もしも、トコちゃんベルトに出会ってなかったら…、早産や子宮脱になってしまったのでは?」と思うと怖くなります。
【骨盤ケアを学んで】
腰痛や臀部痛と違って“シモのトラブル”は、なかなか病院でも口に出し辛いのが現実です。当院に通っている妊婦さん達も、「同じような思いをしているのではないだろうか?」「口に出せても出せなくても、そうならないうちにトコちゃんベルトを使って予防すれば、悩むこともなく、快適に産前産後を過ごせるのではないだろうか?」「助産師として私は、その役目を果たすべきなのではないだろうか?」と思うようになりました。
「トコちゃんベルトについて学びたい!」「妊娠さん達にもっと知ってもらいたい!」との思いで、母子整体研究会のセミナーを受講。セミナーではまず、リラキシンと現代人の筋力の話で目からウロコ(@@)看護・助産時代に習ったことのない、子宮筋での陣痛の伝わり方や、子宮を支えている筋肉・靭帯のコリと緩みの話。自分の知識の断片が線で繋がるような、すごい体験と学びの連続で、腑に落ちっぱなしの状態でした。
そして、セミナーを受ける中で「妊娠・出産・育児は人の全身で担っているのが基本」「局所的ではなく、体全てを観察し整えていくことが必要」ということを強く感じました。
「早く自分の病院の妊婦さん達に教えたい!」と思いながらも県立病院の性質上、特定の商品を勧めることや売ることはできず、こっそりと、自分が担当した腰回りに痛みがある妊婦さん、切迫流早産気味の妊婦さんに教える程度でした。
しかし、妊婦さんから「Aさんが教えてくれたベルトを使ったら腰痛がおさまりました」「体が楽になりました」という声を耳にしたスタッフからは、「明日妊婦健診の○○さん、腰痛が辛いみたいだから、トコちゃんベルトを教えてあげてもらえないかな…」と、私に依頼が来るようになりました。
また、腰痛に悩むスタッフ本人からも「私もやってみたい。教えて」など、とても嬉しい依頼が増え、「骨盤ケアを学んで本当に良かった」と思いました。
医師達は肯定もしませんでしたが否定も反対もせず、院内の売店にも置かせてもらえることにもなりました。
県立病院という制約の中、積極的に勧めることはできず、必要としている人にだけ説明するという程度でゆっくりと前進する中、私は第2.3子を妊娠・出産、そして育児休暇…と、9年ほどの年月が過ぎて行きました。
【産婦人科医不足から院内助産】
その間に病院では大変な事態が進行。2006年3月末で当院の産婦人科医が大学病院に引き揚げられ、当院の常勤産婦人科医はいなくなりました。翌4月からは、公募により就任した医師による産(婦人)科が開設され、5月から月10例で分娩取扱が再開されました。
常勤医師1名のため分娩数を増やすのは難しかったのですが、「分娩件数を増やしたい!」との助産師の強い希望に、「増やすには…」と、彼の賛同を得ることができ、2006年、産科と並行でローリスク妊婦を対象とした院内助産がスタートしました。その間、彼のバックアップを受け、助産師主導のお産に取り組み、助産師のスキルを上げる努力を積み重ねました。
その医師も2016年3月31日付けで退職、産科常勤医はいなくなり、追い打ちをかけるように小児科も同じ時期に撤退。幸い2018年から小児科は日勤のみの常勤医師1名が就任しましたが、産科は、助産師だけの院内助産となってしまいました。
現在は、嘱託医療機関の医師が当院に週2回来られ、産婦人科外来は開設されており、婦人科疾患を持つ患者さんは外来受診できます。しかし、産婦人科の入院病床はなく入院患者さんを担当する医師もいないので、子宮筋腫などの入院や手術もできず、切迫早産などの入院もできません。
当院の院内助産を希望する妊婦さん達は、妊娠12週、20週、26週、34週の4回、その医師の外来で妊婦健診を受け、それ以外は助産師が妊婦健診を行っています。なお、私達は「院内助産」と呼んではいますが、産婦人科医がいないので「助産院」と呼ぶべきかもしれません。
妊娠中は医師が関わりますが、分娩開始から産後1か月健診まで通して助産師が責任を持って関わっているので、内容は助産院と同じです。しかし、正式に「助産院」との名称変更届を提出していないので、「助産院的性格を持った院内助産」です。
【院内助産をするには骨盤ケアだ!】
公募就任医師が在職していた時から、産科医師不足に耐えうるよう備え、常勤医がいなくなっても院内助産でやっていく覚悟はできていたはずなのに、いざその時がやってくると、厳しさと責任は想像以上!重圧に押し潰されそうになりながらも、一方では、「これは一つのチャンス。助産師としてこれほどやりがいのある仕事はない。やってみたい!」と思う心がありました。
助産師外来は、2006年の大学病院引き揚げから2016年までは週3回、現在は基本週5回開いています。それらの業務を助産師は常勤3人と私を含む非常勤(夜勤専門含む)4人の計7人でこなしていて、私が担当している業務は以下の通りです。
・外来では…産科と助産師外来、母乳育児外来、母子の1ヶ月健診
・病棟では…分娩・産褥・新生児のケア
・昨年7月から始まった当院分娩希望の妊婦さん対象の骨盤体操クラス
こうした取り組みの中、徐々に「助産師主導のお産には、骨盤ケアと“まるまる育児”は必須だ」と、痛感するようになりました。
【院内助産の予約・転院状況】
医師不在となって2年目、ローリスクのみを受け入れるため、せっかく分娩希望で来院された妊婦さんでも、既往歴(妊娠分娩歴・病歴)によって、その時点でお断りせざるを得ません。
この1年6カ月間[昨年(4~3月)今年(4~9月)]の
分娩予約希望総数…◎128
既往歴によるお断り+流産+連絡のない離院の合計数…▲20
妊娠22週以降の分娩予約総数…◎‐▲=○108
予約受付件数と、転院件数と理由をまとめると
この1年半 昨年 今年
予約希望総数 ◎128 80 48
予約受付件数 ○108 63 45
転院件数 △ 32 22 10
・切迫早産 3 3 0
・血糖異常 9 4 5
・胎児発育不全 3 2 1
・36週以降の骨盤位 3 3 0
・他の医学的理由 8* 6 2
・里帰り・引越し 6 4 2
分娩件数 ○‐△=●76 41 35
*染色体異常の疑い・子宮頸癌の疑い・原因不明出血・予定日超過など
最終的に月平均件数は、分娩件数●76件/18カ月≒4.2件。なので、分娩予約をされた妊婦さん達は当院にとって、とても貴重な存在ですから、妊娠中に異常に傾いて病院に転院という事態は極力避けたいのです。
順調に妊娠を継続し、安産に導き、産後も母子ともに健康に過ごせるよう援助を行うことは、私達の最大のミッション(使命)と心に刻み、転院になる妊婦が1人でも減るよう今後も努力を続けます。
【院内助産で産める体作りは妊娠中から!】
「そのミッションのためには骨盤ケアは大切だよね!」と。スタッフから声をかけてもらい、「骨盤体操クラス」を私の担当で定期開催することになりました。
当院はリピーターの経産婦さんが多く、程度の差こそあれ、腹直筋離開と尿もれは当たり前のようにあります。そこで、妊婦さんには、妊娠16週から骨盤体操クラスを受講することを必須としており、メニューは以下の通りです。
・“タオルリング体操”で上肢をほぐし
・“ぬぎぬぎ体操”で上半身をほぐし
・トコちゃんベルトやさらしなどを使って骨盤輪支持
・体側伸ばしやお尻フリフリ体操
・空中自転車こぎ
・腹直筋離開予防の腹筋運動
骨盤輪支持のほかに腹帯の指導まで入れると、とても指導時間内には終わらないのですが、どうしても、あれもこれもと伝えたくなってしまいます。
再診料と妊婦加算程度の金額で個別指導もしているのですが、そちらにはなかなか来てはもらえないため、教室でお伝えした体操を続けるよう指導しています。
少し前からは助産師達の間で体操がブームになっているので、短時間で多くの効果がある肘押し体操(一石十鳥体操)を中心にリニューアル中です。
【分娩・搬送の状況】
この1年6カ月間の分娩件数・搬送件数と理由は
・分娩件数…76。昨年…41、今年…35
・分娩中の母体搬送件数…2。昨年…0、今年…2(破水後陣痛未発来…1、微弱陣痛…1)
・搬送後に緊急帝切が必要になった件数…0
・大量出血による搬送件数…0 分娩時出血量…今年の平均は333ml
・分娩中の胎児機能不全による搬送件数…0
CTG(分娩監視装置)…まれにレベル3程度はあるが、レベル4.5は0
資料…レベル1 正常波形、レベル2 亜正常波形、レベル3 異常波形(軽度)
レベル4 異常波形(中等度)、レベル5 異常波形(高度)
近年全国で増えていると耳にする常位胎盤早期剥離や横位ですが、搬送になった妊婦でそれらの診断名が付けられたことはなく、私達助産師による骨盤ケア指導や、妊婦の体作りが功を奏していると思えます。
しかし、長年の運動不足のせいで、体力・筋力のない妊婦さんが多いため、前期破水から始まるダラダラと長引くお産や、経産婦でさえ子宮口7cmで停滞するお産がしばしばあります。
陣痛促進剤が使えませんから、助産業務ガイドラインに添いつつ体操を続けます。妊娠中期に指導した体操なので、声をかけながら促すと体を動かせる産婦ばかりですので、時間がかかっても自然に生まれて来ます。
今後、常勤の産婦人科医がいない地域はどんどん増えていく気がしますが、「骨盤ケアを実施すれば、安全安楽なお産はできる」との思いは、次第に確信に近づきつつある今日この頃です。
【新生児・搬送の状況】
この1年6カ月間 [昨年(4~3月)今年(4~9月)] の出生人数・搬送件数と理由は
この1年半 昨年 今年
出生人数 76 41 35
搬送件数 5 3 2
搬送理由 ◆昨年…周期性呼吸+徐脈+SpO2不安定…2
黄疸を伴わない落陽現象(?)…1
■今年…多呼吸…1 原因不明の発熱…1
◆昨年の新生児搬送後の経過
周期性・徐脈・SpO2の不安定2件
1…日齢1に転院。翌日当院に帰院し、通常の退院日数で退院。
2…日齢1に転院。CRP(炎症値)・ビリルビン値上昇があったが、日齢5で退院。
落陽現象の児…退院予定日(日齢6)に、念のため精査目的で転院し、日齢9で退院。
■今年の新生児搬送後の経過
多呼吸の児…日齢1に転院、一過性多呼吸の診断。翌日当院に帰院。
原因不明の発熱の児…日齢4に転院し、検査行うが感染確認できず日齢9で退院。
普段は母子同室ですが、黄疸が強くなると母子別室とし、コットの上から照射する昔ながらの光線療法を行います。そのときは、コットの中で「院内専用天使の寝床」を使用しています。すると、赤ちゃんの表情は穏やかで、哺乳状態も良好となり、黄疸の改善効果も早いと感じます。
スタッフの間には骨盤ケアはすでに浸透していますが、“まるまる育児”の方は、私自身勉強を本格的に始めたばかりなので、まだまだこれからです。
「マイピーロネオ・“おひなまき”・院内専用天使の寝床を出生直後から全児に使えば、新生児搬送が減るのでは?」と思いながらも、まだできていません。後れ馳せながら、これからやってみたいと思います。
【妊娠期・胎児期からしっかりとケアを!】
以上のように、妊娠中の異常による転院、分娩時の母体搬送、新生児搬送はありますが、院内助産を予約された108人のうち、71組(≒66%)の母子が、地元から離れることなく、自然な分娩・育児をされています。
妊娠中の転院理由として増えているのは血糖異常で、昨年の4に対して、今年はすでに5と増えていることです。血糖異常による転院は、今後の私達の課題です。それ以外の理由での転院は減っていることに自信を持ちつつ、妊娠中の体作りについて、助産師外来の個別指導というメリットを生かし、妊娠中の食事・運動指導を丁寧にすることを心掛け転院を減らしていきたいと思います。
また、搬送となった母子も、重篤な状態に至ったことはなく、当院の2週間健診や1か月健診に来られています。また、当院内で1年に2回“産後の親子の会”を開催しており、それが退院後の成長・発達を確認する機会にもなっています。この会は、当院以外で出産された親子も対象にしていて、1回に約10人の参加があります。内容のいっそうの充実を図るとともに、広報の仕方も検討し、開催回数を増やせたら…と、想いは膨らむばかりです。
【おわりに】
このコラムを書きながら、「妊娠中の骨盤ケアをしっかりと行うことは、イコール“胎児ケア”」と、確信を深めました。
当院では妊婦健診時に超音波エコーで胎児を診ると、背骨はC型、あぐら組んで手は顔の前という、昔から教科書に描かれた通りの正常な胎勢の子が多く、生まれた後もギャン泣きする新生児はほとんどいません。
新生児のうちから“まるまる育児”でしっかり育て、未来を背負って立つ子ども達をより健やかに導く仕事を、私達はしているんです(*^_^*)
助産師としてこれほど嬉しいことはなく、毎日の仕事が楽しくて仕方がありません。こんな楽しい仕事を全国の助産師ができるようになるといいですね。
そして、骨盤ケアと“まるまる育児”が人々の習慣となって、母から子へと子から孫へ…と、自然に受け継がれていくようになるといいですね(*^_^*)
それが母子の幸せ、家族の幸せ、地域の幸せ、日本全体の幸せに繋がっていくのではないでしょうか?
私達もより質の高い、きめ細やかなケアを提供できるように、これからも楽しみながら勉強・研鑽・精進を続けていきます。