公立病院常勤助産師 SさんとMさんのコラム
工夫を重ねながら、地域の特性に応じた骨盤ケアを目指しています!
【はじめに】
はじめまして、外を見ても歩いているのは高齢者ばかり? そんな車社会で生活しているお母さん達を見つめながら働いている、とある県立病院の病棟勤務助産師Sです。
思い返せば十数年前…、分娩後の初回歩行中に脳虚血で転倒しそうになる人が続出。メテルギン静脈注射がアトニン点滴に変わったとたん、分娩後1時間の出血量100gオーバーの人が続出。転倒未遂に拍車がかかりました。
なんとか帰室し母子同室を開始しても、後陣痛が強くて頻回授乳どころか授乳をスキップしなければならなかったり…、コットに寝かせれば泣く赤ちゃんを抱いて散歩し続けるか、吸わせ続けるしか手段はなく、痛みと疲労で追い込まれるお母さんと私。
そんな中、「腰痛と出血は減るらしい」との情報を得て、とりあえず、(旧)母子整体研究会のセミナーに参加したのが14年前でした。
【骨盤ケアを導入】
セミナーではあまりの情報量に、そして操体法をしても頑固な体を持つがために、効果を実感できないまま、熱に浮かされた感じで帰宅しました。でも信子先生のパワーに影響され、やる気だけは溢れていました。
お母さん達を救おう!
そしたら、私も助かる!
そう、自分が助かることも大切!
そのためには「数人でコツコツより、全助産師を巻き込んで、骨盤ケアを定着させる」を目標にし、動き始めました。
当時のY看護部長(助産師)は積極的に医師とも交渉し、まずは「会陰縫合の後なら骨盤輪支持OK」との許可をもらいました。医師の目の前で弛緩性出血が骨盤輪支持で止まったことを機に、「会陰縫合の前にぜひ!」となり、児頭娩出前からしれっと巻き始めても、文句を言う医師はいなくなりました。
効果がない人がいても、悪化させることはない。効果がある人が1人でも増えたら私も楽! それでいて感謝される。骨盤ケアのやり方が正解かどうかを教えてくれる先生は職場にはいないけど、「気持ちいい」と言うお母さん、心地よい顔をして泣き止んでくれる赤ちゃんは、目の前にいるのです。改善する症状を目の当たりにすることで、次第に「間違ってはいない」と自信が持てるようになっていきました。
それで、どの方法が正解か分からなくても、「害はないからとにかくやってみる。効果がなければ変えてみる」をポリシーとして続けました。すると、鈍い私が実感できなかった体操の効果も、半信半疑で説明すると、お母さん達には効果抜群!
【従来の方法に工夫を重ね】
そうこうするうちに信子先生達が言う地域特性が見えてきて、「最初に何をすべきか?」が次第に分かってきました。
私が働く地域でも回旋異常は増えていて、陣痛発来で入院した産婦には、即、骨盤輪支持が必要となります。そこで、健美ベルトで骨盤輪支持をすることにしたものの、回旋が悪くて心音聴取が困難な産婦の中には、CTG(分娩監視装置)用のベルトをきつく締められ、背中側はウエストラインに食い込んでいる人も!それでは骨盤輪支持効果は得られないので、CTG用ベルトの背中側を、健美ベルトに重ねるように下げると、回旋が改善し分娩が進行することがしばしばありました。
また、恥骨結合を寄せるように後ろから前に巻く従来の骨盤輪支持法では、回旋異常がなおらない人が年々増えてきました。そこで5~6年ほど前、ベルトの下端と大転子の下端が一致する位置(いわゆる八戸巻き)で、前から後ろに巻いてみたところ回旋が改善したため、それ以後はこの方法で骨盤輪支持をしています。
そうすると、第1.2回旋異常はなおっても排臨寸前で分娩が進まなくなるため、お尻側の健美ベルトとCTG用ベルトを標準位置に戻します。
さらに、上野順子先生から教わった坐骨結節を広げるように下肢を動かす方法を取らないと、娩出できません。娩出後もそのままにしておくと、子宮体部が奥の方でふわふわのままなので、出血が増えたり、自然排尿ができなかったりします。そのため、分娩台を骨盤高位にして、すぐに前から後ろにキュッ、後ろから前にキュッと巻くと、弛緩性出血と排尿障害を予防・改善できることに気づきました。
児娩出後はCTG用ベルトを外し、その後は、健美ベルト1本で快適な位置と強さを調整しながら骨盤輪支持を続け、翌日のシャワーが終わるまで続けます。自室のベッドの上で骨盤高位で、「直後らくらくトコちゃん」を使って前から後ろに骨盤輪支持をし、トコちゃんベルトを持っている人はダブル巻きにし、退院後も2~3か月は症状がなくても、骨盤輪支持を続けるように指導しています。
そうすることで、腰部痛・恥骨部痛・縫合部痛で鎮痛剤を使いまくっても「思うように育児ができない」と言う人は、ほとんどいなくなりました。
助産師数が多いため、残念ながら完全に統一してできているわけではありません。私が週休などで2日ほど休んだ後に出勤すると、「産後2日間は恥骨が痛くてトイレに行くにも30分かかった」と言う人に出会ったことも…。
私が担当した直後は、「私はもう、この子(新生児)とは、一生、走るどころか散歩もできないのですね」と嘆いていたのですが…、私が教わった骨盤ケアの三原則の全ての技を提供し続け、彼女もセルフケアに励み続けたところ、産後4日には「1ヶ月半後のハーフマラソンに参加してもいいですか?」などと言うまで元気になった(@@)!
【広がりつつある骨盤ケアと“まるまる育児”】
腹直筋離開のお母さん、UFOキャッチャーのような抱き上げ方をしようとするお母さん、口の周りが硬くゆがんで哺乳不良の児など、様々な問題を抱えた母子が退院したかと思えば、また新たに…。このように、終わりなき追いかけっこをしているような毎日ですが、達成感が少なからず味わえる時があるのは、今まで骨盤ケアと“まるまる育児”を学び実践してきたおかげです。
最近は骨盤ケアを行う中心メンバーも増え、病棟スタッフを対象に骨盤ケアの勉強会を開いたり、GCU・NICUと合同で赤ちゃんケアの勉強会を開いたりしています。
地域の人達にも骨盤ケアを広げるために、看護の日にはブースを設けて骨盤ケアコーナーを開いたところ、NHKの10分間ニュースでも紹介してもらえました\(^o^)/こうして活動の場が広がり、骨盤ケア外来(別名になると思いますが)の開設も検討されています。
【おわりに】
セミナーに参加して数回の頃は、正直「えっ、前と違う。変わっている。なんで? ついていけない」と思ったこともありました。今となっては、年々歩かず動かなくなっていく人達に対応した進化がありがたく、これからも勉強しながら工夫し続け、達成感を楽しみながら働き続けたいと頑張っています。
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骨盤ケアコアメンバーの1人、助産師Mです。私は助産師として入職してから、ことあるごとにS先輩の“技”を目の当たりにし、そのたびに「妊産褥婦を笑顔に変える骨盤ケアはすごい!」と感じていました。
恥骨部痛や腰痛、回旋異常や産後出血などの様々なトラブルに対し、「S先輩のようにケアできるようになりたい」「信子先生の研修に自分で足を運んで知識や技術を身につけたい!」と、強く思うようになりました。
そして、入職2年目からセミナーに通い始め、S先輩とともにトコちゃんベルトアドバイザー資格を取得、続けてベーシックセミナーを受講し修了しました。S先輩のアドバイスを受けながら、骨盤ケアコアメンバーとして活動し、S先輩が不在の時には他のスタッフから相談を受けるようにもなりました。
少しずつではありますが学んだ成果を発揮できている今日この頃ですが、まだまだ力不足を感じます。
スタッフの中には不妊治療を受けていてもなかなか妊娠できない人や、妊娠できても経過が思わしくない人がいて、「私達ではどうすることもできない」と感じることがありました。
そんなスタッフを、信子先生が当地域に来られた時などに施術をしてもらったところ、その後、妊娠できた人や、妊娠経過が良くなった人が何人か現れ、そのたびにS先輩とともに「難しいケースも早く改善させられるようになりたいね」と、顔を見合わせながらため息をつくことも…。
今後もコンスタントにセミナーに通い、自分自身のレベルアップのみならず、スタッフ皆が同じように基本的な骨盤ケアが提供できるように、知識・技術を向上させていくことが目標です。そして、少しでも多くの女性の笑顔がみられるよう、学び続けていきたいです。