熊本県の開業助産師 武田真紀先生のコラム
母乳育児支援中心から全身ケアの助産院に
【はじめに】
皆さん初めまして。熊本県宇城市で「たけ助産院」を開業している武田真紀です。
開院は2014年、保健指導型の助産院で、これまで母乳育児を中心に母子を支援してきました。
この度ベーシックセミナーを修了し、骨盤ケアとまるまる育児の素晴らしさを届けるために、改めてスタートを切りました。
骨盤ケアにより妊娠子宮が正しい位置に保たれる ⇒ 胎児は良い環境の中で育つ ⇒ 安産 ⇒ 産後は母乳育児で母子とも幸せいっぱい…。
そんな3拍子も4拍子もそろったケアを知らないなんて、もったいないですね。
私の所信表明「すべての妊産婦とその家族に骨盤ケアを紹介する!」「これからの人生をこれに懸ける!」。こんな私に少しだけお付き合いください。
【骨盤ケアを学ぶきっかけ】
助産院では、母乳をうまく飲めない赤ちゃん、うまく飲ませられないお母さん、それから乳房トラブルを繰り返す母子のセットなど、母子それぞれが抱える問題は様々です。
以前の私の問題解決手段は、ポジショニングとラッチオン、それから乳房マッサージが基本スタイルでした。ただ、白斑だけはすぐ改善する場合と、そううまくいかないケースがあって、他に打つ手がなく「どうしたものかな?」と感じることが度々ありました。
そんなおり、骨盤ケアを学んでいる先輩から「整体の視点から母乳育児支援を学べるセミナーがあるよ」と聞き、上野順子先生の母乳育児支援セミナーを受講。それが私の骨盤ケアとの出会いです。去年の11月のことでした。
【もっと学びたい!】
骨盤ケアの基礎的な学びがないまま、母乳育児支援セミナーや新生児ケアセミナーを受講した私には、ぼんやりと「理解できた…?」「何かわかったようでわからない…」という感覚の方が大きく残り、「骨盤ケアの基本的な理解なしに母子の支援はできない」と気づきます。
そして、トコ企画セミナー受講者のほとんどが最初に受けるメンテ“力”upセミナーを初めて受講することになるのです。そこで受けた衝撃が学びの原動力となります。まさに目から鱗とはこのこと。というか、渡部信子先生の存在自体が衝撃的だったのか、「先生からもっと多くを学びたい!」との気持ちが強くなります。
その後も骨盤ケアアドバンスセミナー、トコちゃんベルトアドバイザー資格取得と進み、骨盤ケアとの出会いから5ヶ月目の今年の3月には、総合ベーシックセミナーを申し込み、京都への月1通いが始まりました。自分でもこんな短期間に学習を進めることは予定していませんでしたが、このスピードで学びが進んだのには理由があったからです。
【セミナーでの体の変化に手応え】
その理由は、セミナーを受けるたびに自分の体に驚くほどの良い変化を感じ、手応えを得ることができたから。
渡部信子先生をはじめ諸先生方のセミナーは、徹底した実践主義。解剖学的理解からベルトの装着、そして操体法に至るまで、自分の体もしくは隣の受講生の体で、調整や効果を確認していきます。新しい知識もたくさん入って来て、もう頭の中はパンパン。疲れているはずなのに、操体法や施術を練習した後は、なぜだか体が楽で足取りが軽くなるのです。
目に見える変化では、メンテ“力”upセミナー時に、正中から2~3cmもずれていた仙骨尖部は、総合ベーシックセミナー終了時には、ほぼ正中に安定。他のセミナー受講後にはない体の変化に、「よし、これは本物だ!」と、回を経るごとに確信は深まっていきました。
また、特に総合ベーシックセミナーでは、より自分の体にフォーカスを当てることができ理解が進みました。まずは、使いづらい体であることに気付けたこと。そして、なぜ使いづらくなってしまったのかについて、考えられるようになったこと。
特に、自身の妊娠分娩経過については、驚くほどわかっていなかったことを痛感。総合ベーシックセミナーを受けながら得られた自分の体への理解、それから、丁寧なセルフケアに導けば体は必ず変化するという体験から、ますます「妊産婦さん達に伝えていかなければ」という想いが膨らんでいくのでした。
【あの時~していれば…】
私は小さい頃から左右の手をバランスよく使えない不器用さを自覚していました。分娩介助では師長さんに「左手が遊んでる。左右同時に使わないと」と指導されたこともあります。
身長150センチで細い体幹。セミナーで紹介される“難産になりそうな女性例”の絵そっくり。
10年前、36歳で第1子を妊娠。腹直筋離開のお腹で、ベビーはいつも危険な横位。子宮口方向にへその緒があるため、健診ごとに医師達から破水した時の対応の念押しをされました。
妊娠38週0日、予定帝王切開を受けるまで、薄っぺらな胸郭の下がった肋骨で圧迫を受けつつ、腹直筋離開で支えを失い、前に出るしかない子宮はいつも硬く張っていました。
生まれた子どもは3,600g。母乳をたくさん飲み、あっという間にコロコロとよく太りました。腹直筋離開でお腹に力が入らず、前かがみ姿勢での抱っこは、体にかなりの負担となり、腱鞘炎にもしばしば悩まされました。
その2年後に第2子を妊娠。第1子の時の尖腹からさらに進んで懸垂腹となり、妊娠33週頃には、もう出してほしい気分。産後も尿もれと膣トラブルがしばらく続きました。
産後に骨盤ケアもおなかケアもしなかった私の体は、8年経っても未だに腹直筋は離開したまま。セルフケアを怠ればすぐ骨盤周囲に痛みが生じます。
そんな体なのに、骨盤ケアを知らなかった母親から生まれた子達は、見事なストレートネックのフラットバック。
「あの時におなか巻きをしていれば…」「骨盤をダブル巻きにしていれば…」「おひなまきを知っていれば…」と、「あの時~していれば…」が尽きません。
助産師でありながらこんな私です。だからこそ、来院したお母さん達に、恥をしのんで自分の妊娠出産体験を話します。そうすると、全員が「次の妊娠初期から、骨盤ケアをします」と話されます。
「妊娠中の骨盤ケアは胎児ケア!」。実は、お母さん達はこの言葉に弱い! 「そうなのそうなの~?」「教えて教えて~」って感じの反応で、お母さん達はみなさん興味しんしん。「やっぱり我が子にはベストな子宮内環境をプレゼントしたい」との、子を思うお母さんの気持ちに触れ、私も温かい気持ちになります。
【乳房トラブルにも全身ケアを!】
最近私が体験したことです。産後9ヶ月、乳腺炎の方が来院。その方の初診は産後3ヶ月、乳腺炎。その後もたびたび乳腺炎を繰り返し来院されていました。
「繰り返す乳腺炎は第6胸椎!」。前回セミナーで教わった背部からのアプローチをやってみようと、側臥位になってもらい、振り返って、見てビックリ!見たこともないくらい強度の側彎で、肋骨の変形を伴い大きく右に彎曲。バランスをとるため腰椎は左に彎曲している。聞けば、「小学校の健診で初めて側彎と言われたけど、特に治療を受けてもいないし、生活できているし、もうこれが普通になっていて…」と、本人はいたって平静。
「お産はどうだったのだろう?」と、カルテを見ると「増強」に丸がついている。途中から分娩進行せず点滴したとのこと。「これで経膣分娩!?」と、さらにビックリ(@o@)
その日は炎症があったので、上肢一式のテイクケアと排乳に留めて、タオル玉や体操などのセルフケアを教えて終了。これまで、乳腺炎後は次の日も連続でマッサージに来られることが多かった方だったのに、翌日、その方からの連絡はなし。上肢や背部のケアにより回復も良かったのかな?
症状が落ち着いた2週間後に施術で来院。まずは姿勢検査。後ろから立ち姿を見ると、耳・肩・腸骨稜の位置は全て右上がりで右前に捻れ、首も左に傾いている。仰臥位では傾きはさらに顕著。全身を見ようと思って見ればすぐに分かるのに…。聞けば「首と肩こりが一番つらい」と。これまで、いかにオッパイしか診てこなかったか…(;-_-)
施術は上肢一式と首の調整から入り、それまで習ったことを全て出し切るつもりで向き合いました。操体法や体操にも時間をかけ、首一式・上体ひねり・4種混合・壁腰回し…などなど。彼女と一緒にした自分が楽になったほど盛りだくさん。
施術後、立ち上がった彼女は「肋骨にいつも右上腕が当たっていたのに、当たりが弱くなった!」と驚きの声!
写真でも見てもらいたく、施術の前後にスマホで撮影。肩の高さがほぼ揃い、首の傾きと右肩前捻じれが改善した写真を見せると、「へぇーこんなに変化するんだ」との表情。
彼女の変化に誰より驚いていたのは私。総合ベーシックセミナーはまだ受講中で、習いたてホヤホヤの技術。たどたどしかったが、一つひとつただただ丁寧にやった。そしたら、彼女の体が改善した。初めての施術でこれだけ変化したことに、「この技術ってすごい!」と、感嘆の叫びをあげてしまった。
これまでは、乳房トラブルといえばオッパイだけを診てきた私ですが、全身ケアを行うことで乳房トラブルのケア・予防になることを、今回の事例で確認することができました。乳房トラブルで来院する方が多い我が助産院。これからは産後の全身ケアは乳房ケアにもつながることを、妊産婦さんたちへ伝えていかなくては!
【妊娠中から骨盤ケアを】
妊娠初期から骨盤ケアを始めていれば、あの強い脊柱側彎も、少しは改善したと思う。そしたら産道の軸も改善し、今回のような難産にはならなかっただろうし、産後だってあんなに繰り返す乳腺炎に苦しめられることはなかったと思う。
リラキシンで靭帯が柔軟になっていて、ゆがみが直りやすい妊娠期を、有効に活用しないのは人生の大損です。
もう1人、先日の事例です。
帝王切開で双子を出産してまだ半月ほどの高齢のお母さん。お腹はまだ1人残っているかのよう。子どもは2人とも反って乳頭に吸着できず。睡眠不足でフラフラ、骨盤輪支持もせずガクガクした足取りで来院。「ベルトって巻かなきゃいけませんか…?」と! 双胎出産後の大きなお腹をどうやって支えていたのだろう? ケアに当たったスタッフは産後も骨盤輪支持指導もせず、このまま初回歩行をさせてしまったのか…? おまけに授乳もできない。そりゃあ助けを求めて助産院へ来たくなるだろう。
お母さん達は知らなかっただけ。骨盤ケアの知識を持つ医療従事者に残念ながら出会うことができなかっただけ。こんなお母さんたちがたくさんいる。助産院へ駆けこめるお母さん達はまだいい。経済的に余裕のないお母さん達はどうしているのだろう?体がきつければ気持ちも疲弊していき、追いつめられるだろう。
そう考えると…、産後のトラブルができ上がった母子を、助産院で待っているだけではいけない。やっぱり妊娠中から予防的ケア=骨盤ケアをすすめていかなければならない。このコラムを書きながら、またいっそう気持ちを熱くする武田真紀なのです(笑)
【たけ助産院の挑戦】
たけ助産院ではこれからお母さんになる人達に、全力でお勧めしていきます。
「しっかり妊娠中から骨盤ケアをして」
「自分の体と子宮の中の赤ちゃんの反応に耳を傾けて」
「安産も母乳育児もラクラクにできる体を作って」と。
あとはどうやって妊婦さん達とつながるかだなあ。たけ助産院の挑戦は続く!