栃木県の鍼灸師 中村幸希さんのコラム
産婦人科医院で働く私の生き甲斐

 
【はじめに】
はじめまして。栃木県足利市にある かしま産婦人科でパート勤務をしている鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師 中村 幸希(ゆき)です。私と同資格の人で、産婦人科施設で働いている人って、日本にはどれくらいいるのでしょうね?

私は院内で、医師・助産師の指示・監督のもと、以下の仕事をしています。

*外来・病室にて…痛みや不調を訴える妊産婦への体操指導や、専門職としてマッサージの施行、骨盤底筋群エクササイズの指導、長期安静後の筋トレ指導
*母親学級にて…骨盤のお話・体操指導 
*トコちゃんベルトアドバイザーとして…骨盤ケアの三原則に沿って指導

などですが、当院ではベビーマッサージ教室やママフィットが盛んで、医師・助産師をはじめ多くの職種の人達と連携して取り組むことにより、クライアントの満足度アップに役立っていると思います。

【職歴】
鍼灸の専門学校在学中から漠然と「女性に関わる分野で働きたい。でも、妊娠・出産に関わることは自分が経験してからでないと…」と想っていました。
卒業してすぐに接骨院に勤務し、その後、整形外科に移りました。整形外科ではめまぐるしい忙しさで、不器用な私は時間に追われ、自分に納得ができない日々が続きました。

ちょうどその頃、家族がリンパ浮腫を発症。リンパ浮腫とは、乳がんや婦人科領域のがんのリンパ節郭清後に起きる浮腫です。「何とかしたい!」という想いで、日本医療リンパドレナージ協会にて学び、セラピストの資格を取得しました。これは、健康な人向けの癒し系の「リンパマッサージ」ではなく、医師の指示のもと複合的理学療法を行う資格です。

その後、リンパ浮腫専門のクリニックに移り、医師の監督のもと、時間をしっかりとって患者さん1人1人と向き合う仕事ができるようになりました。2カ月先まで予約になるような忙しさでしたが、終末期の方も多く、様々なことを学んだ貴重で充実した期間でした。

【妊娠・出産】
30歳で結婚し妊娠。まもなく切迫流産になり休職。心配症の慎重妊婦でした。予定日を1週間過ぎても陣痛が起きず、4日間促進剤を使いましたが「赤ちゃんが降りて来ない」と言われ、最終的には緊急帝王切開になってしまいました。「なんで産めなかったのだろう、もう少し頑張っていたら…」と自分を責め、落ち込みました。

1年後2人目を妊娠し退職。33週で頸管長が短くなり入院し、予定帝王切開の日まで点滴生活に。産院で勧められたトコちゃんベルトを骨盤高位で着用し、無事に37週、帝王切開で出産しました。

今になって思うのですが、色々な経験ができたことで、お母さん達とお話できる貴重な糧となったんですね。これでよかったと思っています。

【骨盤ケアとの出会い】
2人目出産後、長年の夢だった「産婦人科で働きたい!」との想いを抑えることができなくなりました。そこで、以前からエステが行われている かしま産婦人科の院長先生に直接交渉して、働かせてもらえることになりました。

院長先生は私の想いをしっかりと受け止めてくださったものの、妊婦・産婦への施行は緊張の連続。院内の鍼灸・マッサージ師は私1人で、他に相談できる同職種の先輩もなく、本を読み漁りましたが、すぐに役立つ情報を得ることはできませんでした。
妊産婦とそうでない人との、身体の柔らかさや、痛み方の違いに戸惑い、妊婦に触れるのは怖くて仕方ありませんでした。

「マッサージだけでは良くならない…、何かいい方法はないだろうか?」と暗中模索のある日、理学療法士向けの勉強会を見つけ、参加しました。でも、私には理学療法はできません。「何か勉強会を…」と探しても、資格に制限があるものも多く悩みました。また、トコちゃんベルトの着け方を私が説明する立場となり、「これで本当にあっているのだろうか?」と不安でした。

そこでメンテ“力”upセミナーの存在を知り、2014年に受講。解剖学や産科学、現代の妊婦の体、トコちゃんベルト…、疑問だったことが腑に落ちました。
驚いたのは、長時間講習を受けたのに、受講後の体が楽になっていたこと!操体法の心地よさや、自分で自分の体を楽にする方法を知り、「この方法なら私にもできる!」と翌日すぐに妊産婦さんに伝えたところ、即刻、効果を目の当たりにしました。

その後トコちゃんベルトアドバイザー資格を取得。また、ヨガに興味があったのでトコヨガ入門セミナーを受講しました。とってもチャーミングで熱い吉川元子先生に魅せられ、「もっと深く知りたい!」と思うようになり、2015年トコヨガインストラクター養成コースへ。

ベテラン助産師さん達に囲まれ、小さい子ども達を預けて、月1回、全8回の上京。へそくりを使っての受講は勇気がいりましたが、毎回「受講してよかった!」の連続でした。

操体法の手技とヨガのポーズを組み合わせたものがトコヨガで、まずは自分の身体の声を聴く練習から始まります。そして、どうしたら相手に響くか、心の持ち方など、先生がお話しされる毎回のテーマが深く、技術や知識だけでなく、女性として成長させていただきました。

そして、クラスでヨガを行ったときに感じる呼吸の一体感や、瞑想の心地よさに驚き、「この感動を伝えたい!」と強く思うようになりました。ヨガの呼吸法や考え方は、育児にも役立つと思います。
現在も月2回ヨガを習っていますが、ヨガの世界は奥深い…。トコヨガのクラスを持つのがこれからの目標です!

【日々思うこと】
入院中の妊産婦さんの訴えで多いのは、骨盤の痛み、不安定感・腰痛・浮腫・肩こりなどで、産後は、出血や後陣痛などが落ち着いたあと、助産師や看護師に状況・状態を聞いてから施行しています。
私は強いマッサージはしません。手を当てながら緊張をほぐし、つらいことを聞き取り、状態に合わせて操体法やストレッチをトコヨガの要素を加えながら行います。

産婦に触れて思うことは、お産後初の施行時は、まるで“戦場から戻った戦士”で、興奮が残っているのになぜか抜け殻のよう。それが退院の頃になると、かなりしっかりします。こんなに短期間で心も体も変化するのは産後ならではだと思います。

施行しているうちに心を開いてくれる方が多く、お産を振り返ったり、疑問に思うことなどを話してくれます。そんな時は、私の経験を話したり、産後のママフィットを勧めたり、「助産師さんに聞いてみようか?」と間に入ります。

足利市は車所有率が高く、近距離でも車で移動する人がほとんどです。歩く習慣がないので筋力は弱いうえに 、“ドシン”とシートにお尻を下ろし“ズリズリ”とお尻を左にずらす“ドライバー座り”が身に着いてしまっているためでしょうね、「お尻が痛い」と訴える妊産婦さんが多いです。
そんな時は、骨盤ケアの3原則・姿勢のお話→マッサージ→自宅で実践できそうな操体法→トコちゃんベルトを試着という流れで行います。

最初は半信半疑で、ゆったりした呼吸や動きが苦手な方が多いですが、「あれ?痛くない!」と効果に驚かれます。「自分で動いて自分で治せたんですよ!」とお話しすると、「家でもやります!」との声が返ってくることも多く、「テイクケアだけでなく、セルフケアの重要性を、これからも伝えていかなければ」と、私の胸も高鳴ります。

【私の生き甲斐・夢】
私はお産の現場で働く職員たちを心から尊敬しています。そして、異職種である私の仕事を理解し、情報を共有し話し合い、色々なことに取り組ませてもらえる、今の環境はとても恵まれていると思います。
病院からバックアップを受け、先月トコちゃんベルトアドバイザーの資格更新ができました。そして、嬉しいことに、母親学級で骨盤ケアのお話を担当させてもらえることになりました\(^o^)/

未熟な私ですが、熱意は人一倍あります! これからも かしま産婦人科のチームの一員として、日々勉強し試行錯誤しながら、1人でも多くの人々に笑顔になってもらえるよう、骨盤ケア・トコヨガを広めていきたいと思います。

体のケアだけでなく、お母さん達が口に出して話してストレスを発散したり、ちょっとした気がかりを気軽に尋ねてもらえるような…そんな私でありたい。これが私の生き甲斐であり夢です。