「院内感染」
 
年末年始、様々な感染症に関するニュースが飛びかっていました。
1.ノロウィルスの集団感染の病院で入院患者が死亡…(宮崎県・神奈川県)
2.インフルエンザに人工透析の患者ら60人が感染、1名が心筋梗塞で死亡。
 インフルとの因果関係は?…(三重県)
3.大学病院でMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染で極低出生体重児死亡。 NICU(新生児集中治療室)の新規入院中止。1か月後再開…(愛知県)

こんなニュースを耳目にするにつけ、私の胸はキューッと痛みます。なぜなら、私は大学病院勤務時代は院内感染対策委員であり、国からそのマニュアルを作るよう命じられていた立場にいました。ですから、当時の京大の産科分娩部の医長と私とで、今、全国で使われている産科・新生児室における感染予防マニュアルの基を作ったのです。新生児の院内交差感染防止に関しては、人一倍勉強し、実践もし、論文も書いた私には、交差感染防止の難しさも、嫌というほどわかります。ノロウィルス対策の経験は私にはないので、とても大変だということは分かりますが、よくわかりません。なので、2のインフルエンザや、3のMRSAに関しては、ことさら胸が痛むのです。

2.の医療職員は全員、インフルエンザの予防接種を受けていたそうです。それなのに、この事態。実際の医療現場では「風邪気味」くらいでは、休暇申請することなく、仕事に出かける人がほとんどでしょう。「ちょっと風邪気味で…もしかしたらインフルエンザかもしれないので、休ませてほしい」などと言い出せば、「インフルエンザの予防接種を受けたのだから、それくらいで休んでもらっては困る」と言われるであろうことは、容易に察しがつきます。私も大学病院の看護婦長(今は師長という)をしていたので、現役時代ならそう言わざるを得ない立場でした。ワクチンも、確実にインフルエンザを防げるものではないことは多くの人が承知のはずなのに、そう言わざるを得ない現実。それだけどこの医療現場でもギリギリの人員で運営しているのが現状です。

医療従事者は簡単に熱・痛み・感冒症状を抑える薬を手に入れやすいこともあり、簡単にそれらを内服してしまう傾向があります。いや、内服しないと働けないのが現状…。症状がましになった状態で働いている間に、体内でウィルスは増殖します。その後、インフルエンザと診断された時には、既に病棟内にウィルスを撒き散らしてしまっているのです。
職員と患者が同時に感染し、その人たちがまたウィルスの拡散をすることになり…。

高齢患者や新生児は免疫力が弱いのは世の常。職員も、過労・寝不足に加え、免疫力低下が推測されます。さらに、院内感染防止対策に関する意識の低さもあるでしょうまた、意識は高くても多忙と対策費の少なさから時間とお金をかけて、患者・患児一人ごとの手洗い、消毒、更衣などをすることは、実際問題、困難です。

このままでは、日本の病院のどこで集団感染が起きても不思議ではないでしょう。健康な医療従事者がいなくては、患者は安心して入院することもできません。入院して、院内感染で病気をもらったのでは、かえって病気をこじらせてしまうでしょう。日本の医療は、医師不足、看護師不足でどんどん崩壊が進んでいると言われていますが、私はそれ以上に医療を崩壊させてしまう原因となるのは、院内感染ではないかと危惧しています。日本人の免疫力を強化することに、もっと真剣に取り組まなければ、取り返しがつかなくなるでしょう。ワクチンをすれば病気を防げると考えるのは「甘い」と言わざるを得ません。

免疫力の低下に関しては、2012.11.15発行の「メンテ“力”UP通信」No.026に書きましたのでそちらも、ぜひ、再読してくださいね。