徳島県の産婦人科クリニック勤務助産師 お2人のコラム
当院での骨盤ケア
【はじめに】
私達は徳島県の産婦人科クリニックで働く助産師で、トコちゃんベルトアドバイザーの近藤美子と七條奈緒美と申します。当院は女性医師(副院長)1人、助産師3人(日勤のみのパート1人を含む)、看護師8人でお産を取り扱っています。
分娩件数は年間約260件で、助産師2名のどちらも夜勤をしていない夜勤帯は、副院長が全面的に分娩に当たっています。日曜と木曜以外は毎日外来診療に当たり、夜間も寝られないことがしばしばあるため、私達は副院長の体を心配しながら、日々のケアに取り組んでいます。
【骨盤ケアとの出会い】
2015年1月に徳島大学内で開かれたメンテ“力”upセミナーを受講しました。その理論的な講義に痛く納得したにもかかわらず、普段の仕事に戻り現実に直面した時、講義の内容を妊産婦さん達に伝えきれない自分がいました。同年3月、副院長の勧めで安産誘導セミナーを受講。
日々の業務の中に自分なりにできることを取り入れていきました。理論的に説明できませんが、何となく「回旋異常が減少した」「陣痛が有効になった」という手応えを感じ始めました。同年6月、外来でもツライ症状にアドバイスできる自分になりたいと思い、骨盤ケアアドバンスセミナーを受講しました。
そこでアシスタントをしていた原田美佐子さん(現トコ企画講師)に声をかけ、副院長と原田さんとで話し合いの場を持ちました。骨盤ケアの本格的な始まりでした。
【当院での骨盤ケアの取り組み】
当院では2016年10月から月2回、日曜日の午前と午後の2回、骨盤ケア教室を4回開き、全妊婦に妊娠20週までに、必ず受講してもらっています。
副院長は常々「うちのような助産院に毛が生えたような小さなクリニックでは、骨盤ケア教室に参加しない妊婦さんには、怖くてうちでは受け入れられない。そんな妊婦さんは総合病院でお産してもらわないことには、私らの体が持たない」とおっしゃっています。
スタート当時から昨年11月までは4教室とも毎月、原田さんを含む徳島県内の助産師4人に、2人ずつ交代で講師をしてもらっていました。
でも、いつまでも甘えるわけにはいきませんし、「日曜は都合が悪い」との意見もあったため、昨年11月から日曜は1日のみとし、平日の午前と午後に2回開催することにしました。
それを機に、日曜の教室は外部講師、平日の教室は私たち2人が担当するようになりました。
教室参加時に冊子とトコちゃんのアンダー腹巻(L)と健美ベルトをプレゼントし、帰宅時からその後いつでもどこでも、骨盤輪支持ができるように、健美ベルトとトコちゃんベルトのどちらかを選択してもらっています。
教室直後のアンケートでは「少しの体操で変化があったので、続けていきたいです」「勉強になりました」などの記入があるのですが、何日か後に確認すると、「えーっと、どうでしたかね?」という場面に遭遇することもしばしばありました。
そこで教室の内容をより効果的に持続できるように、教室後の妊婦健診時に、ベルト着用の有無、だるまさんゴロゴロ体操・四種混合体操・ネコの操体法・お尻フリフリ体操を確認し、上手くできていなければ再度指導をするようにしました。その後、分娩までに5回、同様のチェックを行っています。
【分娩時の骨盤ケア】
骨盤ケアを取り入れる前は、腰部マッサージ・乳頭マッサージ・散歩などを主に勧めていました。セミナー受講後からは、入院時に骨盤輪支持をし、タオル玉体操から始め、引き続き、下肢の上げ下げの体操・膝クルクル体操・お尻フリフリ体操を勧めています。
寝姿勢にも気を付け、その後、分娩進行度により上記にプラスし、足浴・首回し・腰回し・足趾回しをしたり、ハイハイなども勧めています。
分娩第2期も腹直筋ケアを行い、努責姿勢もいろいろ試みるようにしました。
妊娠中から分娩時にケアを行うことにより、嬉しい変化が見られるようになりました。きちんとデータを出したわけではないのですが、回旋異常や緊急帝王切開も減少し、分娩所要時間が短縮した」との実感を全スタッフが抱くようになりました。
以前は初期嘔吐・多呼吸のためにしばしばあった新生児搬送も、ずいぶんと減少し、お母さん達の泣き声を聞くことも減りました。産後も骨盤輪支持をし腹直筋ケアも行い、産後2か月までは骨盤輪支持を続けるように指導しています。
【骨盤ケアアンケート】
以上、当院での骨盤ケアの取り組みを書きましたが、私達自身も評価を知りたく退院時に任意でアンケートを記入してもらっています。ケアの必要性は全員感じて頂けましたが、トコちゃんベルト、もしくは、健美ベルトの着用率は76%でした。理由は次の通りでした。
①ベルトがずれる
②装着するとゴワゴワする
③着け方がめんどくさい
④装着しても身体に変化を感じない
しかし、次のような嬉しい回答も多数ありました。
①恥骨痛・腰痛・足の付け根の痛み等辛い症状が軽減できた
②骨盤輪支持をすることで体が安定し動きやすくなった
③姿勢が改善した
④お腹の張りが減ったなどの効果を実感している
ただ、全ての方のマイナートラブルが改善したわけではなく、ケアを行ってもツライ症状が残っていることには真摯に耳を傾け、今後対応していかなければいけないと思います。(文責:近藤)
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【私自身の体験】
私(七條)には小学生の2人の子どもがいます。今は骨盤ケアの魅力に引き込まれている私ですが、残念ながら、自分自身は骨盤ケアをせずに妊娠・出産・産褥を過ごしました。
そんな私の妊娠生活は、妊娠反応が出て喜びの気持ちでいっぱいなのは数日で、すぐにつわりのため、食事どころか、水すら口にすることができない日々が続きました。点滴をしてもらい、赤ちゃんは元気だからと自分に言い聞かせたことを今も鮮明に記憶しています。
さらに、第2子のときは、辛いつわりの日々から解放され、楽しいマタニティライフと思っていたのもつかの間、今度は切迫早産の診断で自宅安静となってしまいました。ただ、お産は2人とも安産で産後も特に不調はありませんでした。
今から思うと、自分自身の不調にすら気づくことのできない「感度の低い体」だったのかもしれません。骨盤ケアを知った今にして思えば…、「もしも、あの時に骨盤ケアをしていれば、私のマタニティライフも変わっていたのでは?」と考えてしまいます。
【出会った事例】
最近、改めて骨盤ケアが必要だと感じる事例がありました。県外から里帰りの方で、妊娠20週頃に来院された時、体操やベルトについて指導ができず、次に後期の母親教室のために来院されたときは34週になっていました。そのときは、児頭が下がってカチカチのお腹で、腰痛もつらそうでした。
集団では指導しきれず、教室後に個別指導の時間をとり、トコちゃんベルトを巻くと、「うわぁ、楽」と驚いた様子が見られました。お腹を触らせてもらうと、赤ちゃんが上がりふんわりした柔らかいお腹になっていました。里帰り前はゴムでできているベルトでギューギュー巻いていたようです。
その後、腰痛の訴えがあったので、ベーシックセミナーで習ったばかりの腰椎の調整の操体法をしてもらった直後、驚いたような声で「痛くない!」と。もちろん私もビックリ。毎日続けるように指導しました。その後、妊婦健診時に確認すると「楽だから毎日ベルトをして体操を続けています」と聞き、骨盤ケアの必要性を改めて実感した事例となりました。
骨盤ケアは学ぶほど奥深く、未だ自信を持って伝えられることのほうが少ないですが、これからも1つ1つの事例を丁寧に看て、振り返りながら、元気な妊娠生活を送れる体作りのアドバイスができるよう、勉強していきたいと思います。
【おわりに】
昨年11月から骨盤ケア教室を担当し始めたところ、傍で聞いていただけの時とは大違いで、自らの言葉で分かりやすく説明する難しさに困惑することもしばしばです。経験を積み重ねながら、妊婦さんが自ら行動していけるような声かけや、教室を目指していきたいと思います。
今年1月にベーシックセミナーを修了しましたが、一緒に受講した仲間がそれぞれの場所で、メイン講師となって骨盤ケアを広め、全ての妊産婦さんが「骨盤ケアではつらつマタニティライフ、すんなりお産、らくらく子育て」ができるように、私達も微力ながら頑張っていきたいと思います。(文責:七條)