熊本県の開業助産師 富田 博子 先生 のコラム
保育士キャリアアップ研修会で“まるまる育児”を伝達
【生い立ち】
はじめまして、熊本県合志市で「母子整体・保健相談所 七つのパン」を開業している富田博子です。
私は九州のほぼ中央に位置する“超”が付くほどのド田舎、阿蘇郡南小国町に生まれました。山林と田畑の中で貧しいながらも、人の温もりと大自然に包まれて育ちました。
年寄りとやんちゃな2人の弟に囲まれて、幼いころから人の世話を焼くのが好きでした。
偶然訪れた福岡の病院でテキパキと働く女性の頭に載っている小さなキャップが、やけに可愛く誇らしげで、「なーにあれ? カッコいい(*^^*)!!」と、そのとき「看護婦になろう!」と心に決めました。
【保助看護3つの資格を取り、故郷へ】
高校卒業後、幼き日の憧れを実現するために上京し、東邦大学高等看護学校へ進学、そのまま同大学大森病院脳神経外科病棟で3年間勤務。
当時最新の医療を学び、「ベッドサイドの神経の診かた」や救急蘇生を経験し、その後、佐賀県立衛生専門学院保健助産科へ進学しました。
卒業後は実家に戻り、南小国町役場の初代保健婦として就職しました。医療機関も充足していない山村では、予防が何と言っても重要です。予防接種や検診を受けることを勧め、検診の結果や家庭訪問などで病気や障害の疑われる方を専門機関へ紹介していく仕事を5年間経験しました。
産婦人科の外来主任を務めた際には、母親学級のテキストを作り、多くの妊産婦さんへの指導・相談を担当しました。産婦人科から離れて、老人保健施設の総婦長として就いた際は、医療と福祉の違いに戸惑ったこともありました。
父の突然死や、結婚・妊娠・出産、夫の転勤など人生の転機とともに職場を変え、その度にさまざまな新しい学びを得ました。
【骨盤ケア・まるまる育児と出会い、すべてが繋がった】
助産業務から一度は離れたものの、やはり、赤ちゃんに関わる仕事が好きで、また産婦人科へ戻ることになりました。
そこで母子整体研究会やトコちゃんベルトの存在を知り、早々に研修会に参加しました。渡部信子先生の教えが、ビリビリと体中に廻った気がしました。
思えば第2子…、出産も育児も大変で、児頭は変形し顔はゆがんで浮腫み、そのうえ涙膿炎。反りかえって脚をピンピンに突っ張ってよく泣く子でした。抱いていれば眠るのに、布団に降ろすとすぐに泣き出し、両足で衣類も布団も蹴り上げ、頭の方向へずり上がり…。
1ヵ月を過ぎると、便秘や皮膚のトラブルが一層ひどくなり、悩んだあげく、大人用の綿のたくさん入った半纏で頭から足先まで丸く包んで寝かせたころ、不思議とよく眠りました。渡部先生との出会いは、これまで経験してきたことの全てがつながった瞬間でした。
【開業】
平成20年2月「母子整体・保健相談所 七つのパン」を長女と2人で自宅にて開業。小ぢんまりですが、10年間で地域に根付いた保健相談所となりました。
トコちゃんベルトやスリングの指導、育児サロンなどを開催し、その間、2,005名(胎児期からの乳児1,218名、生まれてからの乳児787名)と関わることができました。
施設勤務の時には難しかった悩みや相談に、ひとりひとり、じっくり向き合えるようになりました。「七つのパン」には妊産婦さんだけではなく、時に年齢や性別を超えて、ふらっと相談に来られる人もあり、ただた笑顔が増えることが嬉しくて働き続けています。
【研修会講話 報告】
平成14年より我が家の子ども達が卒園した子羊保育園の理事として、保育士さん達と関わっています。
平成29年3月31日告示、平成30年度から施行の指針改定に伴い、乳児保育は特に重要な位置づけとなります。子どもの保育とともに、保護者(地域)支援を視野に入れた保育士の専門性が、今後なお一層期待されるようになります。
子どもの発育・発達を保障するために、質の高い保育者の関わり方やあり方を学ぶことを目的とした乳児保育研修会が、下記の要項で開催されました。
研修会名:平成29年度 乳児保育研修会
保育士等キャリアアップ研修「①乳児保育」認定
日程:平成30年1月6日~7日
時間:15時間(最後の2時間を私が担当)
対象:保育士経験7年以上の保育士
場所:熊本県庁大会議室
研修会に参加した保育士173名に、青葉からの「トコちゃんハンドブック」を用いながら、乳児保育の意義や乳児の発達に応じた保育など、「まるまる育児」の大切さと、素晴らしさをお伝えしました。
助産師として働き、渡部信子先生と出会い、学んだことや確信できたこと、胎児期の姿勢・成長・発達、出産時や出生後の児の取り扱い方が、乳幼児の発達にどのように影響しているのかを知ってもらいたく、自分の開業後の経験もあわせてお話ししました。
また、DVD「姿勢のきれいな元気な赤ちゃんに育てよう」を視聴してもらったところ、ほとんどの方が“まるまる育児”に触れるのは初めての様子で、熱心に見入っていました。タミータブの中の赤ちゃんには、笑いが起こり、会場内が活気づいたところで、娘と2人で講壇に立って、基本の抱っこや寝かせ方、人への受け渡し、おひなまき、マイピーロネオやスリングの使用法などを見ていただきました。定頸の確認も娘をモデルに説明しました。
インパクトの強い「ピポクラテスの誓い」は、最初の1分間を視聴してもらい、頭からすっぽり包んだ“おひなまき”の可愛い赤ちゃんに、どっと笑いが起こりました。
セルフケアは、受講者は椅子の姿勢のままで「ぬぎぬぎ体操」と、手・指廻しをする時間しか取れなかったのですが、心身のストレスを日常的に抱えている保育士さん達にとっては、短時間ですが思いっきり笑い、喜びあえた時間だったのではないかと感じました。
最後に、「七つのパン」を訪れる母児の様子を伝えました。泣き続ける子を抱えて、うつ状態に陥った母親にも“まるまる育児”で元気になってほしいのです。最近の子育てサロンには、“まるまる育児”の長い経験を持つ、抱っこの上手な方1~2人に必ず参加してもらい、“まるまる育児”のメリットを話してもらっています。
専門家と言われる保育士や保健師から「変な抱っこをして」とか、“おひなまき”を見て、「動けないから、それだけはしないでください」などと言われて悩んだり、やめてしまう母親も多いのが現状です。
新米母親達が先輩母親達から、「5歳の子の保育園の先生から『お母さん、ハサミはどこで習ったのですか?』と言われて嬉しかった」とか、「手先が器用で病気もしない」などの経験を聞くことにより、「私も丸く育てよう」と思えるようになります。
その後も、メールや電話で母親同士が励ましあう環境ができつつあることも、保育士さん達に知ってもらいたいと思い話しました。
【山あいの少女のままの想いを抱いて】
保育園でも年々手のかかる子が増え、10人の子どもを3人の保育士で担当している場合、1人が泣き叫ぶ子にかかりっきりになると、残りの2人で9人を保育しないといけなくなります。保育士も子ども達も疲れを感じていることでしょうね。
今回の研修会を通して、小学校入学までの間の幼児教育の専門家に、“まるまる育児”をつなげていくことと、お互いに学びあうことを大切にしていきたいと思いました。
還暦を過ぎた今、頭も身体も思うように動いてはくれなくなってしまいましたが、今後は頼もしい助産師の後輩たちに未来を託しつつ、「大好きな子ども達の笑い声の中で、お節介を焼きながら生きていこうかな?」などと、想いだけはまだ、山あいの少女のままの私です。