京都市の勤務助産師 中川あゆみさんのコラム
陣痛促進剤・麻酔薬を使用するお産も、骨盤ケアでスムーズに

 
【はじめに】  みなさんこんにちは。京都の個人病院で非常勤勤務をしている助産師、中川あゆみです。京都の北部京丹後市の出身で、小さいころ入院していた祖父のお見舞いに行ったことがきっかけで、看護師を目指すようになりました。
 私は母子家庭で育ったため経済的に苦しく、働きながら准看護学校に進み、その後、進学コースの高等看護学校に進みました。その看護学校での産婦人科実習で、妊産婦にかかわる助産師さんがとても素敵で、助産師に憧れるようになりました。

 看護学校卒業後は、京都市内の総合病院の産婦人科で1年間、看護師として働き、翌年国立京都病院付属看護助産学校で助産を学び、看護師として働いていた総合病院に、今度は助産師として就職しました。
 就職して2年目、看護学校時代から付き合っていた彼とめでたく結婚、翌年の平成10年8月に長男を出産しました。育休後に復帰したものの朝7時から夜7時まで、子どもを保育園に預けるという生活に耐えられず退職しました。
 2ヶ月間少しゆっくりした後、平成11年12月に家から近い国立京都病院の産婦人科外来に、非常勤助産師として再就職しました。平成13年に次男、平成16年に長女出産。その間4年、非常勤として働きましたが、長女の出産を機に退職しました。

【今の職場でかれこれ12年】
 現在の職場で働くようになったのは、第3子出産の翌年、平成17年からで、働き始めた頃は主に外来がメインでした。子どもに手がかかる頃は仕事・家事・育児に追われ、毎日が精一杯でした。
 しかし、子どもの成長と共に少し自分に余裕ができた頃、病棟でも働くようになり、分娩を担当する機会が増えてきました。外来と病棟を行き来するため、外来でかかわる妊婦さんの分娩を担当することもしばしばありました。
 働き始めて半年後には病院が増改築され、年々分娩件数が増え、現在では月に90~100件の分娩件数となりました。こんな忙しい職場に、かれこれ12年間勤務しています。

【骨盤ケアとの出会い】
 5年ほど前に就職して来たパート勤務助産師Hさんが、お産の時に産婦さんに何やら説明し、四つん這いで片手を伸ばしお尻を振らせていたり、タオルを結んで「結び目を背中やお尻に当てるように」と産婦さんに渡していたり、仰臥位で膝を曲げて膝を揺らしていたり…、何をしてるのか興味深々で聞いてみました。すると、胎児と骨盤の関係、痛みと陣痛と分娩の進行などについて、それまで聞いたことのないいろんな話を詳しくしてくれたのです。それが骨盤ケアと私との出会いでした。

 その後、スタッフの間でお尻ふりふりが広まって行き、前期マザークラスでも取り入れられる程になりました。もっと骨盤ケアについて勉強したいと思うスタッフが増え、数名で休み希望を出して、トコ企画のセミナーを受けるようになりました。セミナーで学んだことを職場で話し合い、「こうしてみよう」などと相談しながら、少しずつ実践できるのはとてもありがたいことです。

【職場の実状から総合ベーシックセミナーヘ】
 しかし、月に90~100件のお産があるということは、1人1人の産婦さんにゆっくりかかわれません。また、陣痛誘発・促進も多く最近話題になっている麻酔薬使った“無痛分娩”も年々多くなってきました。そこで「短時間のかかわりで、産婦さんに適切な骨盤ケアを提供できるようになりたい」、そのためには「もっと骨盤のことを勉強する必要がある」と思うようになりました。
 そして何より決定的なできごとは、骨盤ケアをいろいろ教えてくれた助産師Hさんが、3人目の産前休暇に入ると同時に退職してしまったのです。職場での骨盤ケアに不安を覚えたのをきっかけに、総合ベーシックセミナーヘ進む覚悟を決めました。

【最近になって】
 最近、職場で実践していることは、本格的な陣痛が来る前に骨盤を整えることです。私は日勤のみで夜勤をしていないため、誘発分娩・無痛分娩を受け持つことが多いのですが、きれいな丸い形のお腹の人にはなかなか出会えません。
 陣痛発来前の腹部を見ると、どちらかに偏っていたり、「おっ! 丸い!」と思っても尖腹だったり。そんな産婦さん達に、陣痛促進剤を使用しても、痛みばかり強く訴えて分娩はなかなか進行しません。薬の量は増え疲労は蓄積し、「も~無理、お腹切って~!!」と、帝王切開を希望する人も出てきます(希望だけでは、帝王切開にはなりませんが…)。

 そこで、まだ我慢できる陣痛の間に、ベッド上で「膝倒し踏込み」をしてもらいます。そうすると、左右に偏っていたお腹は左右対称になり、丸くなってきます。そうなると、陣痛も強くなって分娩が進行し始めます。
 ところが、陣痛促進剤を使用している産婦さんの多くは、子宮口開大8cmくらいまで進むと、なぜか進行が緩やかになります。その時に四つん這いでお尻ふりふりをしてもらいます。腰仙関節・仙腸関節がずれ固まって関節の動きの悪い人が多いので、お尻フリフリをしていると分娩がどんどん進み、産婦さんの声の出方が変わってきます。骨盤がケアされているのがよく分る瞬間です。
 今の職場で行っている麻酔薬を使用する分娩では、本格的な陣痛が来る頃に、腰からチューブを挿入して、硬膜外という場所に麻酔薬を少しずつ投与し、痛みの感覚を弱めていきます。施設により異なると思いますが、完全には痛みはとらずに少しの張リが分かる程度に、麻酔薬を使うので“無痛分娩”というよりは“和痛分娩”という表現の方が適するように思います。薬が効いている時間は1~2時間くらいなので、痛みの感覚が強くなってくると、麻酔薬を追加して痛みのコントロールをします。なので分娩が長引けば麻酔薬の量も増えるということです。

 本格的に痛くなるまでに、骨盤ケアで骨盤を整えておくと、子宮収縮は促進され、また、麻酔薬による痛みの感覚の軽減により、産婦の緊張が緩み子宮口は早く開大していきます。特に経産婦さんの場合、先に骨盤ケアをすることで、陣痛が乗りやすく最低限の薬の量で、分娩が終了するケースが多いと感じています。
 セミナーで学んだことを少しずつでも職場で実践することで、骨盤の形と分娩進行状況から、産婦に適したケアを考えられる力が少しずつついてきていると実感しています。

【今後の目標】
 骨盤ケアで分娩がスムーズに進行すれば、陣痛促進剤や麻酔薬を使わなくても済むケースや、使用したとしても最少限で済むケースが多くなります。より多くの産婦さんに骨盤ケアが提供できるように、骨盤ケアの大切さをスタッフに広げていきたいです。
 お産だけではなく、妊産褥婦に骨盤ケアが提供でき、まるまる育児が指導できる病院を目指して、日々勉強しながら仲間を増やしていきたいと思っています。