金沢市の作業療法士 森田 綾 さんのコラム
疑問解決の糸口の一つは、まるまる育児にあるのでは?

 
 皆さんはじめまして、石川県金沢市の病院勤務作業療法士、森田 綾です。私は昭和57年愛知県名古屋市で生まれ、高校卒業まで過ごしました。

【作業療法に魅せられ】
 人に触れる仕事をしたかったこと、「作業を用いて治療する」という未知な世界に魅力を感じたこと、京都で暮らしてみたい…との思いも重なり、平成12年、京都大学医療技術短期大学部作業療法学科に入学。素晴らしい教授陣・先輩に囲まれ、そこで出会った感覚統合療法にどっぷりとはまった4年間を過ごしました。
 平成16年、無事、作業療法士免許を取得し、姫路市総合福祉通園センター・ルネス花北に就職し7年間勤務。その後、東京へ引っ越し、区立療育センター、区の障害福祉の窓口、特別支援学校にて発達障害児・者と関わる仕事を3年間、計11年間続けました。
 平成26年、何の縁なのか石川県金沢市にあるお寺のお坊さんと結婚したのですが、仕事は続けたかったので、同年、独立行政法人国立病院機構医王病院へ就職しました。筋ジストロフィーをはじめ神経や筋肉の難病や、重症心身障害~発達障害のある子どもに対して、作業療法士として向きあうこととなりました。

【苦手意識の強い「小児」、沸き起こる疑問】
 発達障害のある子どもには、主に心理療法士と言語聴覚療法士が関わる病院であるため、改めて「作業療法士には何ができるのか? 何をすべきなのか?」を考えるようになりました。
 人をみるという点では大人も子どもも変わらないはずなのに、作業療法士の業界では“小児”は苦手意識が高い領域です。日本では作業療法士はたくさん養成されているのに、子どもをみる作業療法士はまだまだ少ないのが現状です。
 医王病院では、それまで働いていた公立の療育センターなどでは、出会うことのなかった子どもたちと出会う機会が増えました。おおむね正期産で生まれ、知的な遅れはなく、コミュニケーション態度もまあまあで友好的。でも、姿勢・操作・視知覚などの未熟さが目立つ…、とにかく未熟な子どもがとても多いのです。
 そして、私の中では得意な視点であったはずの「感覚統合のアプローチ」だけでは、子どもの体が変りにくい。それに、そもそも目の前にいる子ども達は“障害児”ではないし…、「いったいどういうこと?」 と疑問を抱くようになりました。

【不勉強のまま臨んだ妊娠・出産・育児から】
 そんな折、私の妊娠が判明。すぐに妊娠悪阻が酷くなって水を飲むこともままならず、毎日点滴を受けて働いていたのですが、ついに働けなくなり2週間の病休をもらいました。その後も点滴を受け、合計4週間、点滴のお陰で命をつなぎました。体重は12キロ減り、その後は産休直前まで何とか仕事はできたものの、胎児体重は常に成長曲線の下限を這うように増加。“ハッピーなマタニティライフ”には、遠く及びませんでした。

 夢見た「天使の寝顔」「笑顔あふれる幸せなママライフ」…、ところが、生まれて来た娘は…泣く・反る・泣く・抱っこがしにくい・泣く…、私も泣きたい!! わけがわからん!! 正直、可愛くないし…(ごめんよ、娘 _| ̄|○)。
 それと同時に、胎児期の発達や赤ちゃんの発達について、私は何も分っていなかったことに気づきました。そう、知らないから行動に移せなかっただけだったのです。
 学ぶ必要性を感じ、赤ちゃんについて調べ始め、まるまる育児に出会ったのが、今から1年半前のことでした。まるまる育児を学び始めると、妊娠前に感じていた疑問が思い出され…、と同時に「解決の糸口の1つが、ここにあるのではないのか?」と思うようになりました。
 これまでも子どもと出会うと、乳幼児期~今の感覚・運動・行為を把握しようとしてきたのですが、「見落としてきたことはたくさんありそう」と気付きました。特に乳児期に関しては把握していた“つもり”だったのでしょうね。ましてや、胎児期についは全く意識の外で、着目することはありませんでした。

【「困った子」への手助け】
 臨床で出会う子どもたちは、「困った子」と言われてしまう子どもたちですが、困っているのは母であり、保育園・幼稚園・学校の先生方であることが多いんですよね。「困った」といわれる現象の背景に、子どもの「発達したい!」という欲求・エネルギーが満ち満ちているのです。子どもは自分で動いて、体や環境を探索し、適応環境を広げているだけなんですよね。
 作業療法士は「困った」現象を減らすだけでなく、未経験・未発達なことを体験・発達させていく、または間違った方向で学習してしまったことを軌道修正するアプローチを行うことが可能な立場です。
 子どもとの身体感覚を通して、子どもの脳とコミュニケーションをとり、そこから子どもが自分で行動を変えていけるよう、手助けしていきたいと思っています。

【作業療法士の強み】
 そこで、「作業療法の強みは何か?」と自問すると、答えは「分析する力」だと思います。医学的知識を併せ持ちながら、神経解剖学的・運動学的・発達学的・心理社会様々な視点で分析を行い、上手く遊べない、食事や着替えなどが上手くできない、学習が進まないなどの原因と対応策を紡ぎだす力を持っています。
 子どもの作業療法は遊びを通して行うことが多いのですが、遊びのネタに関しては、保育士や幼稚園教諭には到底かないません。なにしろ、ペットボトルのキャップ一つで100通りぐらいの遊びを展開できるんじゃないでしょうか? 本当にすごい人達です。
 ただ、「○○が上手くいかないのは、●●の課題があるようだ」「この力を伸ばしてあげると、もっと○○がスムーズにできるようになる」「そのために生活や遊びの中で△△の工夫をしてみる」といった分析ベースの展開は苦手のようです。そのため「分析部分は作業療法士がリードしながら、保育士・幼稚園教諭×作業療法士で一緒に子どもの育ちをサポートすると、お互いの強みをさらに伸ばせること間違いなし!」と感じています。
 赤ちゃんのケアに対しても同じようなことを感じています。助産師さんのように、お産に立ち会うことは今後もないと思うし、生まれたてのベビーと触れ合う機会なんて数えるほどしかないと思います。
 ただ、お母さんが赤ちゃんを育てるという作業の中で、「産院で助産師さんから教えてもらったことを上手くできない」「自分で調べてやってみたけど、思うようにいかない」といったことなどは、「作業療法士の視点で提供できることはたくさんある」と感じています。こんな偉そうなことを書いていますが、「そうありたい」との願いも込めて書いてみました。

【骨盤ケアやまるまる育児と出会って】
 骨盤ケアやまるまる育児に関しては、2016年に新生児ケアセミナー、2017年にメンテ“力”upセミナーを受けたばかりの“ひよっこ”。骨盤ケアの大切さに気付いて1か月がたったばかりで、骨盤輪支持の感覚が少しずつ分かってきたくらいです。
 まるまる育児に出会って1年半がたち、「もっと早く知りたかった~」が正直な感想で、「もっとたくさんの人が知るべき知識・技術だ」と思います。まるまる育児が普及することで、きっと、障害児と呼ばれてしまう子は減り、笑顔で自信を持って子育てできるお母さんたちが増える気がします。
 赤ちゃんや子どもは全身で自分の思いを表現しています。それを受け取り、伝わって満たされたら私も発達していく。そんな心地のいい関係をいろんな人と結びあい、母も子もその周りの人たちも、そして私自身も、みんなで学べる場を作っていきたいと願っています。

【こんな私がシンポジストに!】
 助産師ではないので、妊婦さんと触れ合う機会は皆無だし、赤ちゃんをちゃんと抱いたのは我が子だけ。そんな私ですが、10月22日(日)、大阪で開催されるシンポジウムのシンポジストとして参加することになりました。
 シンポジウムでは、ここに書いたことや、最近取り組み始めた「定頸を促す取り組み」について報告できるよう準備しています。加藤先生をはじめたくさんの人達と交流と学びを深め、より納得できる仕事ができるようになりたい!」と思うと同時に、「骨盤ケア・まるまる育児を実践しながら、あと1人、いや、2人、生みたい!」と思っている私です。
 10月22日(日)、大阪でお会いできることを楽しみにしています!