神奈川県の助産師 松嶋裕美先生のコラム
クリニックの中に“まるまる育児”を根付かせつつ、開業
【はじめに】
神奈川県の助産師 松嶋裕美です。横須賀のクリニックで常勤助産師として働きながら、出張助産師として開業して、この3月で4年目に入ります。
看護も助産も神奈川県で学んだ後、県内の3か所の病院に勤務。公立病院では何を始めるにも話が全然進まないもどかしさに熱意もやる気も下がる中、新しく開院するクリニックに誘われ、平成22年に今の職場に就職しました。
【新人助産師時代の私の仕事の仕方】
まずは、私の新人助産師時代の仕事の仕方からお話しします、昭和の話ではありません、平成の話です!並んでいる赤ちゃんに哺乳瓶をくわえさせ、飲み終わったら順番に肩に担ぎ、パンパンと背中をたたき、ゲップが出たら平らな硬いマットに真っ直ぐに寝かす。ゲップを早く出せる助産師がベテラン! これがベビー室の日常でした。
私自身は子育てもしていないので、赤ちゃんの発達などについては苦手意識があり、「生後28日までが産科、1ヶ月健診が終わったら小児科。私たちは専門外!」と、何の疑問も持つことなく働いていました。まさに、トコ・カイロプラクティック学院の先輩諸姉が嘆きながら話している、そんな働き方をしていました。
【骨盤ケアを学んだところ…】
今の職場に移り、集中して骨盤ケアを学べるようになったこの数年、骨盤ケアを知ると骨格全体を知りたくなり、胎内で育っている赤ちゃんの骨格や発達も気になり…、「専門外!」と言っていられなくなりました。「どれだけ多くの赤ちゃんに、申し訳ないことをしていたのか…」と、反省。
悪くしようと思ったのではなく、無知ゆえに行っていたケアなのですが、それがまだまだクリニックの中で、いや、全国の多くの施設で行われている現実。「まずは自分のクリニックで、できることから始めよう」と思いました。
産後のママ達にはお部屋でこっそりと骨盤ケアをしてあげられても、赤ちゃんは難しい。ママ・パパはもちろん多くの看護スタッフが関わるため、私1人でまるまる抱っこしていても、次の勤務者が体をねじって抱いていたら、意味がありません。
「看護スタッフ全員に新生児研修に行ってほしい!」と思っても、クリニックという職場柄、私生活を調整してまで時間外研修に参加するとか、ましてや東京まで研修に出かけるような殊勝なスタッフは極少数。けれども、バスタオルで赤ちゃんを丸く包む“バスタオル巻きまき”で、泣き止んですぐに寝るのを見て、「巻き方教えて…」と言ってくれるスタッフがいたのが幸いでした。
【院内研修を開催、変化が起きた】
興味があっても自分からグイグイ学びに行けないちょっと内気なタイプが多いから、攻め方を変えよう。「沈黙していてはいけない!」と思って、まずは、赤ちゃんの発達を学ぶために、師長と研修に通いました。電車の中では、毎回2人で熱く熱く語り合いました。
・ねじれて反り返って泣き続ける赤ちゃんを、地域の助産師が大変な思いをしながらケアしている。
・お産を取り扱う施設のスタッフが「元気ならいい」などと、無責任なケアをしていてはいけない。
・自分たちが妊娠・出産・産褥を看ているのだから、赤ちゃんもママもニコニコと暮らせるように母子の体を整えてあげたい。
院内で行うには院長の理解が必要です。「良いことはどんどんやって!」と言ってくれる院長なら苦労しませんが、そんな院長は少ないようで、うちのクリニックも同様でした。
そこで、「ちょっと偉い講師から説明してもらえたら、院長も首を縦に振ってくれるのでは?」と師長と画策し、トコ企画の新生児セミナーの誘致開催を考えました。
残念ながら開催規模や予算の関係上、開催までは至らず、小林いづみ先生に相談しました。すると、返事は「松嶋さんが講師で院内研修をしたらいいじゃない」と(@@)!「でも私では院長を納得させられないので、院内研修の講師をしてください」とお願いしたところ、トコ企画の資料は使わないプチセミナーとして、小林先生が講師を受けてくださいました。
・研修会場が狭いため、午前午後の2回
・当直明けの人は明けで、当直入りの方は仕事前に
・日勤者は午前と午後交代で
「案ずるより産むがやすし」と言えるほど、院長をはじめ育休中のスタッフも、ヘルパーさんも参加。まるまる育児の理論、腕のねじれを治す操体法、まるまる寝床の作り方、抱っこや赤ちゃんの受け渡し方、“バスタオル巻きまき ”など…、盛りだくさんの内容で、活気ある研修となりました。
人形の赤ちゃんの受け渡しで、看護スタッフがヒョイと手だけで渡す中、大事に大事に相手の近くまでいって渡したのがヘルパーさんでした。小林先生に褒められ、「あんなに褒められたら恥ずかしい」と、言っていたヘルパーさんの顔は誇らしげでした。いつもお掃除をしながらママ達とお話しをし、ママ達を支えている大事な1人です。
今では看護スタッフのほぼ全員が“バスタオル巻きまき”ができるようになり、バナナ型クッションを丸くした寝床に“バスタオル巻きまき”にした赤ちゃんを寝かせてくれます。ベビー室でスヤスヤ寝ている赤ちゃんを見たママ達からは、「教えてください!」との明るい声が聞かれるようになりました。「丸くするとよく寝る」と実感したママ達は、次に赤ちゃんを預けに来る時には、コットに授乳クッションをはめ込み、“バスタオル巻きまき”にして連れて来ます。
【スリング指導と産後のサポート】
もう一つの大きな変化がスリング指導です。以前勤めていた病院では防災グッズとしてスリング様アイテムがありました。各コットに設置されているものの、普段は使えずホコリが溜っているだけ…。
それなら当院では普段でも使えるようにと、普通のスリングを防災グッズとして設置しました。「大規模震災時の広域避難所に行くために使用する」が設置名目ですが、お部屋で使ってもらってOK。
私はダイニングで昼食後、まるまる寝床の作り方、まるまる抱っこの仕方、スリングの使い方、まるまる寝床への“脱皮”までを集団指導しています。ちなみに“脱皮”とは、スリングのリングを緩めずに、服を脱ぐように背中側を頭方向に上げて赤ちゃんを降ろすことを“脱皮”と表現しています。「スリングを緩めるとまるい姿勢が崩れてしまうので、良い形をキープしたまま降ろすように」と説明しています。他のスタッフも、スリング指導について自信を持って説明できるようになるといいなと思っています。
現在クリニックでは以下の産後のサポートを行っています。
・2週間健診
・1ヶ月健診
・生後2ヶ月の“はぐはぐクラス”
・生後3ヶ月の“はぐはぐクラス”
・お誕生日会
“はぐはぐクラス”を始めた理由は「1ヶ月健診以降は、行政の健診が4ヶ月でしょ? この間はどこがサポートするの?」などで、内容はまだ茶話会程度です。それでも、今では「4ヶ月以降もやって欲しい」との声が高まっています。
でも、当院は多くのクラスを開催できるようには建てられていません。レクチャールームと呼ばれるスペースを、上記以外に、母親学級を3種類、骨盤ケア教室・ヨガ・アロマ・母乳外来と、11種類の教室などを、曜日・月編成で調整しながら開催しています。そう、既に飽和状態なんです(-"-;
「院外にスペースを探し、院内で開催しきれない教室などを開いていこう」との話が出ています。妊娠中に受けられる“まるまる育児クラス”や、ベビーの発達クラスなど、やりたいことがいっぱい(@@)
「まるまるグッズが無いからできない」と言うのではなく、ある物を工夫して、できることからやっていく。1人で暴走しないよう、周りのスタッフと上手に協力しながら、1つでもママ達と赤ちゃんたちにいいケアができるように、試行錯誤を続けています。
【出張助産師として開業届、研鑽の毎日】
病院で働いていた時は、まさか自分が開業するなんて、思ってもいませんでしたが、クリニックでクラスを担当していると、それだけでは対応できないケースがあり、次第に「個別で診たい」と感じるようになりました。副業OKのクリニックですので、思い切って出張助産師として開業届を出しました。
毎月のクリニックの勤務は、日勤何日かと、当直が6~10回で、お休みの日に3クラス連続開催したり、当直明けに訪問に行ったり…、という形態での開業です。
はじめは、自前の「骨盤クラス」だけ開いていましたが、「自分の生活する横浜でもっともっと骨盤ケアが浸透してほしい、一人でも多くの妊婦さんが学べる場があれば」と、昨年の8月、(有)青葉後援の「トコちゃんの骨盤ケア教室」の講師を引き受けました。
その他、妊婦さん対象の「お産に向けての骨盤ケアクラス」「まんまる育児のためのプレママクラス」、赤ちゃん対象の「まるまるねんねクラス」「ころりんクラス」を開いています。
それに伴って、個別ケア・産後の訪問など色々増えてきました。 先日、「2人目ができたので、松嶋さんのとこに行かなくちゃ!」と、1人目のときもケアさせていただいた方からリピート利用がありました。2人目のリピーターさんは開業してから初めてで、思い出してもらえたことがうれしかったです。
1ヶ月に個別対応できるのは10件弱という細々とした活動ですが、ママたちから要望がある限り、できるだけ時間を調整して対応していきたいと思っています。また、教室には遠くから参加される方もあり、この2時間が有意義な時間になるよう、魅力ある教室運営を目指し研鑽の日々を送っています。