『これは大変! 埼玉県の母子医療』
 
人口10万人当たりの医師の数が139・9人(08年)と全国最下位が続いている埼玉県。その埼玉県で大変な事態が進行しています。

8月15日「国立西埼玉中央病院が、分娩中止」と発表。またたく間にツイッターなどで、ショックが全国を駆け巡りました。同院の地域周産期母子医療センターは、新生児科専門医が不在となる可能性があり、NICU(新生児集中管理室)が休止となる恐れがあるため、「新たな分娩予約を当分の間中止」と発表したのです。

これに先立ち、埼玉県南部に位置する志木市立市民病院の小児科の入院治療が休止となったのが今年の4月。その理由は、常勤医師3人の退職です。志木市長は清水病院長(小児科医 64歳)の今年3月末までの任期を更新しないことを通告。その後、残る2人の小児科医が退職を申し出たためです。

志木市立市民病院は小児科もある総合病院で、全病床数は100。小児科病床はそのうち45を占め、24時間救急に対応できる拠点病院でした。周辺市町約70万人分の小児救急を、人口7万人の志木市が支えていたのです。もともと厳しい経営状態だったのに、平成21年に利益率の高い整形外科の入院治療を休止したことなどで経営悪化。22年度には小児科だけで1億6千万円の赤字を出す事態となりました。

患児の約8割は志木市以外の子どもなのに、財政負担は志木市だけが引き受けてきたことも、赤字となった原因。小児科医でもある清水病院長の、小児科医療に対する熱意は並々ならぬものがあったことはこれらの数字を見てもわかりますね。しかし、病院長は病院の経営や市の財政のことも考えないと良い医療を続けることは難しいことを、志木市の今回の事態が物語っています。

これに続いて、さいたま赤十字病院で、小児科の常勤医師4人全員が退職意向を表明。同病院はすでに小児科専門外来への新患受け入れを中止し、ハイリスク妊婦の受け入れも制限しました。

こうなった理由は?

同病院は平成27年度に県立小児医療センターとともにさいたま新都心に移転することが決定。高度医療は県立医療センターが引き受けることとなりました。

一方は高度な設備が整った施設で、多種多様な患児の診療ができる施設
一方は風邪や腹痛程度の患児しか診察できない施設
若くて勉強意欲にあふれる小児科医は、どちらで働きたいでしょうか?答えは明瞭ですよね。とはいえ、県で最も大きな赤十字病院の小児科がなくなるなんて、産科が個人医院と同程度の妊産婦しか取り扱えなくなるなんて、そんなことがあっていいのでしょうか?いずれも後任の小児科医の確保は困難で、解決の糸口は見えていません。埼玉県における母子医療の崩壊は、隣接する東京・栃木・群馬・茨城・千葉にも及んでくることは必至です。

「日本の医療は、技術の高度化や要求水準の上昇にもかかわらず医療費が削減されているために崩壊が進んでいる」と、多くの医師は言います。

果たしてそれが母子医療崩壊の最大の原因でしょうか?私はそうは思いません。我々団塊の世代が、子どもを生み育てた時代と比べ今はハイリスクの母子がはるかに多くなっています。 ハイリスクの妊産婦を生み出さないようにするには、妊娠出産に適した体を作り上げることが最大のポイント。そのためには、妊娠初期の妊婦のみならず、まだ妊娠していない女性も含めて、「骨盤ケアをするのが当たり前」にならないといけないのです。 いくら税金をつぎ込んで、建物を建て、医療従事者をかき集めて高度医療センターを開設しても、イタチゴッコにすぎませんからね。