愛知県小牧市の勤務助産師 東野芳子さんのコラム
腰痛重症例から学んだ骨盤ケア教室の重要性
皆さんこんにちは、愛知県小牧市の産科婦人科ミナミクリニックに勤務している助産師の東野(とうの)芳子です。ミナミクリニックは開院して3年、医師3名、看護スタッフ36名(うち助産師16名)で、昨年の分娩件数は約800件でした。
【骨盤ケアクラス】
2年前から東野・東の2人で、骨盤ケアクラスを開いています。当初は月2回の開催でしたが、今年から毎週1回、定員10名、参加費1,500円で、資料とさらしを配布しています。当院での出産予定者の半数以上が受講できる枠があり、余裕があるため、他院に通院中の方も受け入れています。
そのような方達の中には、こちらが何も言わなくても、「前のお産の時に、このクリニックで骨盤ケアができたので」と、次の妊娠時も通院される方が徐々に増え、うれしく思います。
これまで失敗や苦労は多々あったのですが、今回は、実際にあった衝撃的な恐怖体験をご紹介します。
【恐怖の体験】
私がやっとの思いでトコ・カイロプラクティック学院のベーシックセミナーを修了したのが2013年11月。それから細々と腰痛外来で相談を受け始め、まだまだ手探りでケアに当たっていた2014年12月2日のことでした。
外来のスタッフから、「1か月健診に来られた初産婦さんなんですけど、腰痛で困っている方がみえているのでお願いしま~す」と、声がかかりました。
外来に降りて行くと、腰に手を当てて脚を引きずりながら、何とか歩いている小柄な女性が目に入りました。
カルテを見ると、
妊娠・分娩…順調、3,200g 男児 AP8-9
分娩時の出血量…やや多め。これ以外は記録なし
母乳分泌…良好
運動歴…バスケットボール・陸上競技
BMI …18.9
高価そうなウエストニッパーをまず外して、操体法を指導しました。重症になると夢にも思っていなかったたことと、さらしを上手に使えそうな方だったので、さらしだけ使って骨盤支持をしたところ、すぐに症状は軽減。とても喜んで下さいました。自宅でも続けられるよう、操体法や骨盤輪支持法をしっかり練習してから帰宅されました。
それから8日後の12月10日、その方から電話があり「腰が痛くて歩けないので、救急車でクリニックに行っても良いでしょうか?」と(@o@)!
さすがに何があったのか気になりましたが、助産師の私が「救急車受け入れOK」なんて返答できず「整形外科へ」とお答えしました。
それから2日後の12日にまた電話があり、「整形外科では『レントゲンで異常はない。安静にするように』と言われた。良くならないので相談したい」と。今度は「自家用車で送ってもらう」とおっしゃるので、来ていただきました。
診察室のベッドには、毛布やクッション類を重ね、重症者に対応できるよう準備完了。「もう…どこが痛いのかすら分からない」と話す彼女を車からやっとの思いで車いすに移し、診察室に着くと車いすからかつぎ上げて、重ね上げたクッション類の上に腹臥位を取らせながら、私は奈落へ突き落とされたような、泣きたくなるような恐怖に襲われていました。
骨盤を診ると、左の後上腸骨棘が鋭利な刃物の様に触れて、ビックリ! まるで石器時代の石包丁みたい…。「見てはいけないもの見てしまった? 私にできることって…?」 全く思いつかず、頭の中は真っ白。「誰か助けて~!」と叫びたくなったその時、渡部先生の言葉を思い出しました。「体に触れられないくらいの、何もできないくらいの重症者は、とにかく足首からやで」を。
「とりあえず、何かの間違いでもいいから、良くなって~っ(>_<)」と、心の中では泣きながら、骨盤周囲にゴムチューブを巻き、ゆらゆらゆすり、足首を回しました。
すると、痛みと緊張で「何が何だかわからない」状況から、少し落ち着きを取り戻され、痛みを伴う動きと、痛みを伴わない動きの検査に、答えられるようになりました。
痛みをできるだけ軽減させるための工夫としては
・トコちゃんベルトⅡの着用指導をし販売。さらしも使って、ダブル巻きⅡ-1
での骨盤輪支持法を指導
・車いすにもバスタオルなどを使って細工をして、座り方も考えて
車いすに移動
・授乳やトイレ時の動作を具体的にアドバイス
そのとき、ふと「渡部先生が名古屋に来られているのでは? 来られているのなら診てもらおう!」とひらめきました。「私にはこれ以上楽にしてあげる技はないし、渡部先生は次回はいつ名古屋に来られるのかわからない。何とかして施術を受けるように!」と勧めました。いろんな幸運が重なり、翌13日、施術していただくことができました。
14日、「足に力が入るようになりました~」と、車いすで来院。後で渡部先生に尋ねると、「あれだけ強烈な痛みで動けない人は…名古屋では歴代1位か2位やね~」と。そして、どこに問題があり、どのように対処したかを教えて頂きました。
20日、車いすで来院。自力で立ち上がれるようになっていました。しかし「トイレはまだ15分ぐらいかかるし、立ち上ると、その後の痛みがツライ」「寝るのも授乳も車いすに座ったまましている」と。そのためか、両下肢に強い浮腫(+)。血栓症が心配なので、予防法を指導しました。
この日も、前回同様のケアをした後、車いすに座ってバスタオルを使った首の体操・挙手の操体法・足踏み込み操体法などのセルフケアを練習。家でも続けるよう指導しました。
タオルや枕を使って寝る工夫の仕方を指導したものの、その後も、立ち上がりや歩行はトイレ時のみで、車いすで24時間寝起き。操体法や筋トレを細目実施しながら過ごされました。
1月5日に電話があり、「大みそかには布団で横になって寝られました!」と嬉しい報告をいただきました。
後でよくよくお話をうかがったところ、
・「1か月健診で骨盤ケアを受けた後、家族が『さらしでは効かないのでは?』
と言って、強力なゴムのコルセットを薬局で購入して来た」
・「それを着けた直後に激痛が走った」
・「すぐに外して、何も骨盤の周りに巻かずに不意に立ち上った瞬間
“バキッ!”と音がして、激痛が走った」
それで「救急車で行きたい」と電話をする事態に陥ったそうです。
産後5ヶ月頃にはベビーマッサージのクラスに出席できるまで回復されました。お会いするたびに、赤ちゃんではなく自分が座ったり立ったりして、「見て見て、すごいでしょ!」と見せてくれました。渡部先生の施術には1月、3月、5月…と通いながら、体作りに励んでいるとのこと。
当時のことを振り返りご本人は、「私はもうこのまま車いすで生きていくしかないと諦めていた」「渡部先生が『次もちゃんとお産できるようにしっかり体作りに励んでや』と言ってくださった。もう一人赤ちゃんを産んでもいいんだ」と嬉しげに語る姿に、私も涙が出るほどうれしく、心から安堵しました。
こんな怖い体験はもう2度としたくありません。「産後1か月健診を過ぎても、骨盤輪以外の部位を締めつけるウエストニッパーやコルセットなどは、絶対に着けてはいけないんだ。油断してはいけない!」と強く感じた症例で、骨盤ケアをしっかり伝えきれなかったことに責任を感じます。
その反省から骨盤ケアクラスでも、産後の骨盤ケアについては、くどいほどお話しています。甘くみたらいけないのです。ですから毎週、骨盤ケアクラスでは、熱く二人で語りながら指導を行っています。
教室の様子については、長くなりますので、今当院でブームの“たてみつ”とともに199号でご紹介いたします。