「妊娠後期に安心して使える解熱鎮痛剤は皆無」
妊娠中に腰や頭などが痛くても、熱がでても、薬はあまり使いたくないのが人情。それは、「もしもお腹の赤ちゃんに何か影響があったら、取り返しがつかないから…」と思うからですね。痛みを和らげ熱を下げる解熱鎮痛剤は、ありがたいものですが、吐き気・眠気などの様々な副作用を伴いがちです。また、アスピリン(バッファリンなど)をたくさん飲むと、血液が止まりにくくなることは、ずいぶん前からわかっていることです。その副作用を利用して、血液が固まりやすい人には治療薬として使われています。
今から二十数年前、私が大学病院に勤務している時、市内の病院から、妊娠初期の中絶手術の後、「出血が止まらない」ために、救急搬送されて来たことがありました。
産婦人科的な検査や処置をしても全く変化なく、夜中じゅうタラ~、タラ~と、出血が続いていました。朝になり、血液検査のデータをそろえて、内科の血液専門の先生に診察に来てもらったところ、その先生は患者さんの顔を見るなり「あんた、バッファリン飲んでないか?」「飲んでいます」「一日何錠?」「12錠」「なんで?」「頭痛」
この時、私はびっくり仰天(@@)/~! 頭痛のために、12錠も毎日飲んでいる人がいるという現実を初めて知ったからです。原因も分かり、その患者さんは早々に退院されましたが、もしもこれが分娩時だったら、命を脅かすような大出血になった恐れがあるのです。
手軽に薬局で買えるこんな薬を、頭痛のつらさに負けて、もしも副作用の注意書きなどを無視して飲む妊婦さんがいたら本当に怖いことです。でも、幸いそんな大出血で命を落としたというニュースは聞いたことがありません。でも、分娩時に大出血をした人の中には、「もしかしたら、こっそりそんな薬を飲んでいた人がいないとは限らないのでは…?」と思っています。分娩に立ち会っている医師・助産師は、そんな産婦が来ても、命を助けなければならないのですから、つらい立場です。
特に、妊娠後期は使える薬が限られています。妊娠32週以降に解熱鎮痛剤を使うと、「動脈管(ボタロー管)閉鎖」のリスクがあるものが多いため、アセトアミノフェン(カロナールなど)だけが妊娠32週以降の妊婦にも使える薬として、処方されてきました。
ところが最近、これも「動脈管閉鎖」のリスクありと改訂されました。動脈管収縮の因果関係が否定できない3例があったためです。これで、臨床の現場ではこれまでのように「これは妊婦にも安心ですよ」と処方できる解熱鎮痛剤はなくなったのです。
カロナールは使用禁止ではありません。他の解熱鎮痛剤よりはずっと安全ですので、「効果が危険性を上回る」場合は使えばいいのです。高い熱や痛みで眠ることも食べることもできず、体力が弱ってしまってまで、カロナールすら使わないなんてことは、もっと良くないですからね。
でも私は「薬を使わなくても良い体作りが肝心」と考えています。妊娠を目指す人や、妊娠している人には「腰痛や頭痛に悩まない体作り」を、毎日の習慣にしてほしいと願って、東奔西走、昼夜を問わず働いている私。あ~今晩も、来月発売予定の『妊活本(仮題)』(筑摩書房)の校正と明日のセミナーのレジュメの仕上と印刷で、ほぼ徹夜です。