熊本県の開業助産師 林田直子先生のコラム
お手上げの新生児訪問からたどり着いた骨盤ケア

 
【臨床経験がほとんどない開業助産師】
 こんにちは。熊本市で開業助産師として活動している林田直子です。
「開業助産師」と堂々と名乗ってますが、実は、助産師としての臨床経験はほとんどありません。看護師や保健師としてのキャリアの方が長く、「助産師」と名乗れるようになったのはつい最近のことです。夫の転勤について各地を転々としながら、学生のころから興味があった、ストレスによって凝り固まった体のケアや、カウンセリングを学んでいました。
【助産師会に入会、新生児訪問】
 熊本に帰って来たある日、保健師と助産師の資格を取るために通っていた専門学校の同級生とバッタリ再会しました。彼女は熊本県助産師会で新生児訪問に携わっていて、「産後うつの予防のための勉強を、助産師会を挙げて取り組んでいる」と、熱く語りました。 産後うつもストレスと大きく関係があります。私は「産後うつについても学んでみたい。何かお手伝いできることがあるかもしれない」と思い、助産師会に入会し新生児訪問を始めました。
【お手上げの新生児訪問】
 助産師として働いた経験がほとんどないので、新生児訪問については先輩の助産師に相談したり、本を読んではみたものの、「産後ママや赤ちゃんに役立つ指導ができているのだろうか?」と不安でした。
 産後うつの勉強はとても興味深かったのですが、訪問するママが全員 産後うつやマタニティブルーズではありません。それ以前に、育児の悩みや体の痛みやつらさに、くじけそうになっているママの姿を目にすることが多く、「そちらを改善してあげる方が有効なのでは?」と思うことがしばしばでした。でも、「では、どうやって?」となると、手の施しようがありませんでした。
 「まったくお手上げ~!」と感じたのは、30歳代後半のママを訪問した時でした。「やっと授かった赤ちゃんなので、かわいくて仕方ない。でも、全然授乳ができない」と言うのです。授乳の様子を見せてもらうと、おっぱいは張っていて、赤ちゃんはおなかがすいている様子で泣くのに、おっぱいに吸い着いたと思ったら離し…、吸い着いたと思ったら離し…を繰り返し、お互いが頑張っていても授乳できない状況でした。今思えば、ママと赤ちゃんの緊張がとても強く、反り返りや向き癖のせいで、授乳が困難になっていたようです。 ママも赤ちゃんもヘトヘトになっているのに、私にはなす術がなく、かといって誰に相談しても何一つ解決策が見つからず…。大きな問題を抱えていないケースには一通りの訪問指導ができるようになったはずの頃だったのに…、心の中にいつまでも、重く残ってしまいました。
【骨盤ケアとの出会い】
 助産師会に入って1年経った頃、当時ただ1人、熊本で骨盤ケアで開業していた助産師 富田さんによる研修会が開かれました。それまでも「トコちゃんベルト」のことは耳にしていましたが、「ベルトだけで何でも良くなるなんて考えられない (`ヘ´) 」との先入観を抱いていました。でも、ベルトや骨盤のことだけでなく、体を整えることにも注目していて、興味深いと感じました。 その後、「受講すれば、何かできるようになるだろう」という軽い気持ちで、(旧)母子整体研究会のセミナーに参加したところ、自分の無知さと体の使えなさに愕然としました。たった一度参加するつもりだったのに、セミナーが福岡で開催されるたびに受講して、少しずつ理解できるようになりました。そうすると、「これでは足りない。もっと知りたい。できるようになりたい!」の連続で、現在に至っています。
【骨盤ケアが私に自信を】
 勉強を重ねるうち、渡部先生に施術していただいたり、操体法を使えるようになって、腰痛や頭痛に悩まされることもなくなりました。最近は、来ていただいたお客様から「頸管が短くなって入院寸前だったのに、正期産できた」とか、「骨盤位がなおった」など、うれしいお話を聞くようになりました。
 新生児訪問では、「赤ちゃんが泣いて眠らないので、産後は数えるほどしかベッドで寝たことがない」と嘆くママに、赤ちゃんの抱き方や寝かせ方を伝えたところ、「眠れるようになった」と感謝されました。
 妊婦さんやママたちは妊娠出産に関する経験が少なく、小さなことにも不安や悩みを抱えがちです。施術しながら、心配に思っていることなどを聞いて共感したり、不安を取り除いたり、軽くなるような話をすると、今まで勉強してきたストレスケアも「有難い貯蓄」と、嬉しくなります。

 先日、あるお客様が「私は友だちに『かかりつけの助産師さんがいるのよ』って言っているの」と話してくださり、自信が持てるようになりました。それでやっと、新生児訪問時の母子健康手帳に<助産師 林田>とサインできるようになりました。それまでは<林田(助)>でした。助産師と名乗ることなんておこがましかったのです。
【トコちゃんの骨盤ケア教室】
 細々と続けている新生児訪問ですが、骨盤ケアを学びながらしているので、保健師や同僚の助産師に“骨盤ケアの大切さ”などを伝えていました。「必要な人や、骨盤ケアを望む人がいたら、骨盤ケアをしている助産師がいることを教えてね」と頼んでいましたが、ほとんど効果がありませんでした。「これでは骨盤ケアは普及しないな~(c_c)」と思い悩んでいるとき、渡部先生から「トコちゃんの骨盤ケア教室を熊本で開かない?」とお話をいただきました。まだまだ勉強中で自信がなかったのですが、「このチャンスを逃しては、骨盤ケアは広まらない!」と、チャレンジすることにしました。
 今は、毎月1度のペースで教室を開いています。教室には、トコちゃんベルトを使いたいと思いながらためらっていた人、トコちゃんベルトを持っているけど宝の持ち腐れになっている人、間違って使っていた人などが、たくさんいることがわかりました。そして、私自身もこの体験が自分に一番勉強になったと実感しています。 ただ、教室参加者で「妊娠中から知りたかった」「一人目の時から知りたかった」と言う人が後を絶ちません。「どうして病院の助産師さんたちは教えてくれないんですか?」と、何人もの方に聞かれました。熊本で骨盤ケアが広まっていないのは、病院勤務の助産師が骨盤ケアについて学ぶ機会が少ないことが原因かと思い、助産師会会員で病院勤務している同僚に頼んで、院内のスタッフ向けの骨盤ケア教室を実施しました。すると、骨盤ケアについて知識を得た助産師は、腰痛などを訴える妊婦さんたちに、必ず骨盤ケアを紹介してくれるようになりました。
【10月に熊本大学でメンテ“力”upセミナー】
 「やはり、熊本でメンテ“力”upセミナーを開催することが、骨盤ケアを広める一番の方法だ」と痛感し、渡部先生にお願いして、今年10月3日(土)、4日(日)に、熊本大学病院で開催することに決まりました。熊本県内だけでなく、南九州の助産師も、福岡まで行くことなく熊本で受講できるのです。
 たくさんの助産師の希望が集まれば、どんどん熊本でセミナーが開催できるかもしれません。どこに暮らしていても、骨盤ケアを受けられる女性が増えるので、つらい体を抱えて妊娠期を過ごしたり、泣いて眠らない赤ちゃんの育児にヘトヘトに疲れるママが激減するでしょう。考えただけでもワクワクします。
【8月に熊本県看護協会講習会】
 そんな時、熊本県看護協会から「8月23日(日)看護協会の会館で1日かけて、あなたに骨盤ケアの講習をしてほしい」と依頼がありました。「病院に勤務する助産師みんなが、渡部先生のメンテ“力”upセミナーを受けられるわけではないので、ぜひ」と会員から希望があったようでした。「熊本の多くの助産師が骨盤ケアに興味があったのだ!」と思うと嬉しくて、嬉しくて、自分の力量も顧みず二つ返事で了承してしまいました。
 今は、メンテ“力”upセミナーと看護協会の骨盤ケア講習会が成功するようにと、願いを込めて準備中です。
【母子保健指導力upセミナーの講師めざして】 
 もう一つ準備を始めているのが、トコ企画主催の“母子保健指導力upセミナー”の講師です。助産師より保健師の仕事を長くしてきたこと、ストレスケアでカウンセリングを学んできたことを生かすチャンスでもあるのですが、保健指導するのとセミナーをするのとは大違いです。
 先日、宮崎加代子講師のセミナーで、私は世話人かたがたアシスタントを務めました。9月の福岡でのセミナーでは部分的に私が担当する予定です。考えただけでも胃が痛くなりそうですが、精いっぱい努めます。宮崎講師と一緒に温かい目で見守ってください。
【骨盤ケアは公衆衛生】
 今は自分自身の許容範囲を超えるくらいの状況ですが、「熊本で、日本で、妊娠出産をする全ての女性が、必要とする骨盤ケアを十分に受けられるように広めていきたい!」と思っています。なぜなら、私は「骨盤ケアは公衆衛生だ」と思っているからです。助産師だけでなく、ほかの職種の方も、一緒に骨盤ケア仲間として活動していきましょう。10月3日(土)、4日(日)、熊本大学病院でのメンテ“力”upセミナーで、たくさんの方とお会いできるのを楽しみにしています。