埼玉県の私立病院に勤務している助産師、須貝さんのコラム
「普通に分娩できる人が少なくなったのでは?」との思いから、
セミナーや自主練習で学び続けている私

 
 皆さん、初めまして。埼玉県にある私立病院に勤務している助産師の須貝と申します。私は助産師となってすぐに今の病院に就職し、10年目となりました。骨盤ケアに初めて出会ったのは、2011年6月、埼玉県の川口リリアで開かれたメンテ“力”UPセミナーを受講した時でした。
 受講するきっかけとなったのが、当院でトコちゃんベルトを取り入れることになったものの、「トコちゃんベルトってどう使えばいいの?」「いつから使っていいの?」などの妊産婦さん達の疑問に答えられなかったことでした。渡部先生の講義を初めて受けたメンテ“力”UPセミナーは、私にはとても衝撃的で、思い当たることがいっぱいでした。2日間の受講が終わると、今までのお産に対しての考えがガラリと変わり、“骨盤ケア”への意欲が沸き起こってきました。
この頃、当院には私と同じようにメンテ“力”UPセミナーを受講しているスタッフが何人かいたのですが、「一緒にがんばろう」と言ってくれる人はなく、私の知っている知識とケア方法をこっそりと産婦さんや褥婦さんに伝える程度でした。なので、私の勤務帯が過ぎるとケアは継続できないことがほとんどでした。そのうえ、伝えたことの効果を評価することもできませんでした。そんな日々が半年ほど続くうちに、「もっと自信を持って骨盤ケアをできるようになりたい!」との思いに掻き立てられるようになり、トコべルアドバイザーの認定をとりました。得意分野がこれといってなかった私に、初めて興味と自信が持てる分野ができたのです。このことが、仕事をいっそう「面白い!」と思えるものに変えました。

 今から2~3年前、今の病院に就職してからわずか7~8年しかたっていなかった頃なのに、「普通に分娩できる人が少なくなったのでは?」と思うようになりました。微弱陣痛の産婦さんがいる場合でも、日勤帯ならば「誘発剤を点滴」という方法もあります。でも、夜間は緊急時でなければ誘発剤は使用しないのが当院の方針ですので、私たち助産師は産婦さんをなだめながら朝を迎えることが日常茶飯事でした。そんなわけですから、夜間の分娩は次の1か2のどちらかになります。
  1.スムーズに生まれるのだけども出血が多い
  2.微弱陣痛でなかなか生まれない

 夜勤をたくさんしている私は、これではたまったものではありません。そこで、「なぜ微弱陣痛になるのか、分娩を促進する方法はないのか?」と考え、陣痛がある人にベルトを巻いたり、体操の指導をしてみたりしました。すると、夜勤帯でも普通に分娩できる人が現れ出したのです!でも、回旋異常も多く、私の知識や技術の限界を感じ始め、「もっと実践に活かせて、自分の勤務帯でも効果が実感できる技術はないものだろうか?」と悩みは深まる一方となり、「総合ベーシックセミナーを受講しよう」と決意しました。
 セミナーでは毎回、自分の身体の使えなさ、腹力のなさ、触診のできなさ…など、痛感させられました。患者さんへの触り方もとても乱暴だったことにも気づかされました。また、レオポルド胎児触診法にいたっては、「これまでの私は、胎位・胎向・胎勢の触診ができていなかったんだ!」と気づかされ、「今までの分娩時のアセスメントは、何をしていたんだろう?」と恥ずかしくなってしまいました。
 セミナーで1回説明を聞き実習しただけでは理解できず、総合ベーシックセミナーの同期生を中心に自主練習をしている「自主練の会」に、何度も参加し練習しました。また、そこでは自分が悩んだケースについて参加者同士で一緒に考えることができるだけでなく、何気ない会話の中にも多くの発見があります。皆の頑張りに自分も励まされる「私の大切な場所であり時間」、それが「自主練の会」となっています。セミナーで習いたての「検査・コリゆるめ・調整」を、忘れないよう、実際にスタッフや妊産褥婦さんに行うように努めました。すると、スタッフは口をそろえて「楽になった、気持ちが良かった」と言ってくれて、産婦さんは体に手を当てただけで「温かくて、気持ちいい」と、産婦さんの反応も変わってきました。

 また、分娩の進行にもとても良い結果が現れるようになりました。例えば、1経産で予定日超過。陣痛誘発目的による入院。1日目は誘発開始後まもなくから児心拍数が低下し始め、有効陣痛にならず中止。2日目は私が担当となったので、産婦さんの体を検査しました。
「どの体操をどの順番でしたらいい」との判断もまだできない未熟者ですが、とにかく思いついたことからやってみました。お腹も足も冷たかったので、アキレス腱を温めながら、四種混合や足の上げ下げの体操指導をし、その後、仙骨周囲の硬いコリをメンテボールでゆるめながら、猫の操体法やお尻ふりふり体操などの指導をしました。前日と同様に陣痛誘発はしましたが、そうこうするうちに前日とは違って有効陣痛が発来陣発し、児心拍数もさほど下がることなく、スムーズに分娩となりました。他にも、子宮口が全開しても児頭が下降してこない産婦さんに対し、タオルとレッスンベルトを使い胎勢を整え、体操を指導してみたら、スムーズに児頭が下降し分娩となったケースもありました。

 褥婦さんのおっぱいケアにもセミナーで習った技は活かせます。外側上部のシコリがなかなか取れない褥婦さんに、大胸筋・小胸筋ゆるめを実施したところ、シコリが消えました。また、基本整体セミナーで学んだ技術は、おっぱいの緊満が強い褥婦さんに実施すると、全体的に張りが落ち着き、乳汁分泌が促進されます。おっぱいが痛くて眠れない褥婦さんでも、施術中はうとうとしている様子も見られます。

 新生児にも、新生児ケアセミナーで習った「後藤巻き」や「いづみ巻き」で、丸くくるんでいます。初めて習った時は、「どんなもんかなぁ」と軽い気持ちでした。しかし、丸くするだけでゲップが出ることにまずはビックリ。包むとピンピンの足があぐらをかけるようになり、何より赤ちゃんが空腹時以外は泣かなくなりました。面白くなって、その日は新生児室にいた赤ちゃん全員を、まん丸にくるみました。気持ちよさそうな赤ちゃんの顔を見て、「まん丸にすることってすごいなぁ」と改めて実感しました。
 夜間、泣き止まない赤ちゃんを抱きながら廊下を歩いているお母さんに伝えると、「すごい、その巻き方教えて下さい」と懇願されることもしばしばです。気持ちよさそうに眠る赤ちゃんを見つめるお母さんは、とても素敵な笑顔になります。

 ここで紹介した私の実践はごく一部ですが、一緒に働いたスタッフからは「どうやったんですか?」とかよく聞かれるようになりました。また骨盤のレントゲンや触診した感じをふまえアセスメントしながら、独りでブツブツ言っていると、「そんな方向から考えたことなかったなぁ」といった声が上がるようになりました。以前ではだれも相手にしてくれなかったのに、ケアの効果を実感できてきたのか、骨盤ケアに興味を持ってくれるスタッフが増えて来ました。その証拠に、当院からトコ企画のセミナーに参加するスタッフが続々と現れるようになりました。もちろん自腹です。
 先日、久々にメンテ力UPセミナーを再受講しました。初めて受講した時と比べると内容も進化し、今までの知識と技術の確認や、新しい発見もでき、とても有意義な2日間でした。一緒に参加した同僚は、「こんなことは学校では教わってこなかった」「骨盤の触診で、そんなことが分かるんだ」と1日目と2日目の、どちらの内容も満足している様子でした。

 セミナー受講後、スタッフの中で「色々試してみました」という話を聞くようになりました。その一部をご紹介します。
・分娩進行が停滞した状態で受け持ちを変わり、とりあえず仙骨に手を当てて 三陰交に指を当てていたら、体が温かくなり2時間で分娩になった。
・分娩後、全身がぐらぐらでなかなか立ち上がれない褥婦さんに、体操をして から立ち上がってもらうようにしたら、ほとんどの人がスーッと立ち上がれるようになった。
・切迫早産で入院している人に、タオル体操を指導したら「気持ちいい」と絶賛だった。タオル体操は切迫早産で入院している人には、絶対したほうがいいと思う。
などなど…、目を輝かせて話してくれるようになり、スタッフの仕事に対する姿勢も、変わってきたように見受けられます。

 骨盤ケアやまんまる育児に興味を持ち、一緒に活動してくれるスタッフも増えてはきましたが、それらを院内で普及させるためには、まだまだ課題がたくさんあります。しかし、まずは自分がスタッフや妊産褥婦さんにより確実に伝えられるように、勉強に自主練習に頑張っていきたいと思います。